箱は腕のいい箪笥職人がつくる
ダイキチが、そうそう、というように何度もうなずくと、「『先生』のおともだちが、いらっしゃるんでね」と、おもしろそうに急須をかたむけて、ヒコイチの湯呑にお茶をそそぐ。
『先生』もなんだか、おもしろいはなしをきくような顔で、ヒコイチにうなずいた。
「ああ、そのお友だちが、赤ん坊をつれていらっしゃるのか」
「いいえ。赤ん坊ではございません」
「 ―― え?」
ダイキチにいれてもらったお茶をすすろうとしたのに、先生のはっきりしたそのこたえに、湯気だけすって首のうしろに寒気がはしる。
「 あ ・・・あかんぼうじゃねえって・・・その・・・それじゃあ、もしかしたら・・・『生き人形』っていうやつで?」
「おお、ヒコイチさんも『生き人形』の不思議話をきいたことがおありで?」
ダイキチがうれしそうに首をのばす。
「ああ。きいてもいねえのに、一条のぼっちゃまが教えてくれましたさ」
なんでも、どこぞの人形師がつくった人形に魂がやどり、話して動き出したのを不気味におもい遠くに捨てても、戻ってくるというはなしだった。
「―― そういや、・・・その人形を捨てるのには、海だか川に浸かっていって、人形を笠にのせて流すと、もうかえってこねえとか・・・その、笠の代わりってことなんですかい?桐箱は・・・」
「ああ、桐箱は、もう、タイゾウさんのところにお願いしたので、ヘイジさんが仕上げてくださったみたいで、今日とりにゆこうかと」
「タイゾウさんのところで、ヘイジさんが?」
タイゾウというのは、すこしまえに、西堀の隠居のところの奉公人であるサネからの頼み事で知り合ったサネの妹の旦那だ。箪笥をつくる腕のいい職人で、ヘイジというのはその息子だ。
ダイキチは、ええ、とじぶんのお茶をいれ、ひとくちつけてからそのお茶の味を判じるように、「腕もよくて口もかたい」とほほえんだ。
わけあって、タイゾウはこのダイキチのことを、『すごい念力をもつ坊さん』だと思っている。きっとこんどもそれを利用して、『桐箱』をつくってくれと頼んだのだろう。




