きゅうな知らせ
ダイキチがまた手をのばしてきて、ヒコイチが畳に置いた手をやさしくたたいた。
「 いや、ヒコイチさん、わたしらはうれしいですよ。 世間からはずれたこんな年寄りたちを気にかけてくれる人がいるなんて、これは、うれしいことですよ」
ねえ、と『先生』に顔をむけると、目元をぬぐうほどわらっていた『先生』も、にっこりとしてうなずいた。
ヒコイチがもごもごとなにかこたえようとすると、先に黒猫がみゃあと鳴き、『先生』のとなりにいって丸くなる。
『先生』が、それの背をなでながら、ヒコイチにすまなそうな顔をむけた。
「わたくしの知り合いが、こんどここに来るというので、ダイキチさんに布団を頼んだのですけど、《元締め》のおっしゃるとおり、街の布団屋さんに頼んだら、きっと妙な顔をされるだろうと思いまして・・・」
「いや、たしかに、そうかもしれねえなあ。だから元締めに頼んだってのは、べつにいいんだがよ、あんな顔して、気配りがこまけエんだよ。元締めは」
そう。元締めは、ダイキチのことを心配しただけなのだ。
だが、ダイキチがじつは一人暮らしでないことを知っていたヒコイチが、勝手に考えすぎてしまっただけだ。
「いやいや、やはり《元締め》に頼んでよかった。 おかげで、こうしてヒコイチさんのほうからやってきてくれた」
「やってくるもなにも・・・」四日前に会ったばかりだ。
「いや、あのときはまだ、なにもなくてね。 次の日にきゅうに知らせがあって、箱はあてがあったけれど、布団はどうにもしようがないので、あわてて元締めのところに走りましてねえ」
そうだ、『桐箱』だ。
いや、それよりも、やはり ――
「・・・あの、その『布団』ってのは、 やっぱり・・・だれかをいれ・・・寝かせるための布団ですかい?」
赤ん坊を抱いた誰かが来るのか?