勝った気に
そうだ。四日前には、この黒猫もあの場にいた。
「・・・ダイキチさんとこなんだけどよ・・・」
『 あのお屋敷がどうした? 』
黒猫は前足の毛をなめるのをやめ、顔をあげた。
「いや。《お屋敷》が、どうとかじゃなくて、 まあ、ほら、あのふたりの・・・・その、この先が、どういうことになるかとか、まあ、あれよ・・・」
ここでへたに赤ん坊のことをくちにしたら、乾物屋のことだからきっと、きいてもいないふたりの『夜』の事について、ことこまかにヒコイチにきかせてくるだろう。
―― いや、まてよ・・・
そうだ。もしあのふたりにこどもができたとしたら、この黒猫が黙ってなどいられるか?
それこそ、きいてもいないのに、ふたりの『床』について、のぞきみしてきたかのように、ことこまかく・・・・
―― ってエ、ことは・・・
おもわず、にやりとくちがゆるむ。
黒猫は金色の眼玉をヒコイチにむけ、こいつはなにを言いだしたのか、というような顔をしている。
「 そうか。ってエことは、おめえも知らされていねえんだな」
『 なにをだよ 』
ふだん、なんでもお見通しのような《乾物屋》が知らないというだけで、してもいない勝負に勝ったような気になる。
「いいか、聞いて驚けよ。 ダイキチさんと『先生』なんだけどよ、 ―― 」