もやもや
寒気、ではなく、なんだかモヤモヤとしたものがわきあがった。
めをむいてだまったままのヒコイチをほうったまま、元締めはわらうようにうなずいて、嘘だよヒコさんあのご隠居がそんなことしなさるわけねえだろう、と将棋の駒をしまいはじめる。
この《元締め》は、ヒコイチがかついで売り歩く品を、どこからともなく集めてそろえる男で、それらの品は、お茶から金魚までさまざまで、どれをとっても品がいい。いったいどういうツテであつめるのか、または頼まれるのかはしらないが、それらの品を、まっとうな値であつかうこの《元締め》に誘われたから、ヒコイチはそれをかついで、街をながして売り歩いている。
つまり、《元締め》のことを信用している。
その売り歩きが縁で、いまではあちこちに顔見知りができ、ながい付き合いになるひとたちもできた。
一条のぼっちゃまや、西堀の隠居であるセイベイ、そこからの縁でダイキチとも知り合いにもなったが、ヒコイチはこれらの人たちを信用している。
と、いうことに、とつぜんヒコイチは気がついた。
信用しているから、この人たちには、話していないことはいくつかあるが、嘘をついたことはない。
いや、べつにだからといって、むこうのすべてを知りたいわけでも、話してほしいと思うわけでもないが・・・。




