別れの刻(とき)
ここでおわりです
「浸かるまえに、助けてもらったんだがよ・・・。いままでも、気づかねえところで、きっと誰かにたすけてもらって、そンでおれはここにいる」
『 おめえがここにいるのは、三途の川を渡るための銭を持ってなかったからだろ 』
「くちのへらねえ猫だな」
ヒコイチは黒猫をつかんで身をおこすと、すばやく懐にかかえこんだ。
「 ―― 生きてるときに、料理屋だとか、旦那衆に、口添えしてくれたんだろ? 死んだ後にきかされても、礼なんていえねえじゃねえか・・・」
『 なんだよ・・・セイベイだな。いや、ありゃよ、おめえのことを、そのな、・・・ 』
「ありがとうな。乾物屋のじいさん。もどってきてくれて、よかったぜ」
『 ・・・なんだよ。おれが思い残さねえよう、成仏させようとしてやがるな 』
「まあ、そうよ。 ―― と、言いてえとこだけどよ、・・・もうこのまま、ずっとここにいてもいいんじゃねえのか?西堀のじいさんだって、あんたがまたいなくなったら、きっとまた、ひどく落ち込むぜ」
ぽん、と頭をたたいた猫が、すっと身をひくようにヒコイチの腕からすりぬけた。
すりぬけたくせに、すぐそこであしをとめると、顔だけヒコイチへとむけ、金色の眼でじっとみる。
『 ヒコ、わかれってのは、な、かならずくるもんだ 』
とめる間もなく、猫はするりと土間におり、縁の下へと消えた。
その次の日、一晩中黒猫をさがしまわって疲れ切ったヒコイチがセイベイのところへいってみると、前の晩にセイイチがどこかの祝い事によばれてもらってかえった鮨をたらふくたべてきもちよく寝ている『乾物屋』がそこにいた。
ヒコイチが『乾物屋』をぶん投げたとか、クロがその仇をとるようにヒコイチにとびかかったとかいうはなしはまた後日、セイベイが、ダイキチと先生にわらいながら語る《おもしろいはなし》となる。
目をとめてくださった方、おつきあいくださった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございました!




