見たのかい?
この章で終わりです。
六、
そういやあ、と将棋盤のむこうで腕をくんでいた《元締め》が、強くたちあがった髭をつまみねじりあげ、ヒコイチの顔をみた。
「・・・あの、キナン町の履物屋のご隠居は、 ―― 《生き人形》をみたのかい?」
十日ほどあけてたずねたヒコイチを、めずらしく、落ち着かないようすでむかえ、さっさとこちらがいつものように将棋盤をだして用意しはじめるのにも、いつものように黙ってつきあっていたのだが、いつも通り勝負がつまりだしたところでとうとう我慢できなくなったように、なにげないのを装った《元締め》がきりだした。
「 ああ、そうだなあ。 来たな。 おれもみた」
将棋盤をにらむふりでこたえる。
「み、見たのか!?ヒコさんも、生き人形を?」
ふだんよほどのことがなければ言葉をつまらせることなどない元締めが、さらには将棋盤越しに身をのりだして、ほんとかい、と茂った眉毛の奥の眼を丸くしている。
「そりゃ、あれかい?ほんとに勝手に動くかい?」
「ああ、動いたな」
それはもう、ゆっくりゆっくりと。
「それで?まさかほんとうに、しゃべったりするかい?」
「ああ、よくしゃべる」
ひどく間のびしているが。
いやあ、と元締めは強くて長い髪を無理に縛りあげている頭をかいた。
「でもそりゃ、あれじゃあねえかい?おなじ言葉を繰り返したもんじゃねえかい?それに動くっていっても、からくり人形みたいな動きだとかよ」それなら《仕込める》かもしれねえ、と『テヅマ』をしてみせる元締めは天井をにらんでいる。
いやいや、とヒコイチはここぞとばかりににやけて首をふる。
「煙草まで吸いやがるんだ。タツミ屋の細刻み煙草を気に入ったらしくてな。ダイキチさんが土産に持たせてやってたぜ」
「みやげ!!ちょ、ちょっと待ってくれよヒコさん、『生き人形』は、そのまま帰っていったってのか?ダイキチさんとこにきたのは、寺に納めるためじゃねえのか」




