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桐箱の布団に客をむかえるはなし  作者: ぽすしち
 五

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27/32

よい旅


「 ヒコイチどん、これは、わしらのつかう薬でな。なんにでもよう効く膏薬こうやくじゃ。足の傷にはるといい 」

 さっきとはちがう婆さんのような声がいうと、貝のすきまから芭蕉の葉に似たもので包まれたものがころりと落ちた。


 近寄ったヒコイチは「ありがてえ」とそれをいただくと、膝をついて貝の隙間をのぞきこんだ。

「喰われそうなところを助けてもらったうえに、こんな薬までもらっちまったが、おれはさっき、あんたらのはいってるその貝がおさまってた箱を、化け物に投げつけちまったんだが、ひょっとすると、大事な箱だったんじゃねえのかい?」

 

 箱に貼ってあった『護符』がどうだか、と、あのムジナだかの化け物が言っていたような気がする。

 それにさっきから『竜王様』だとかいう名もきこえているが、タニシのためにこの者たちが入る白い貝をはじめから龍王さまが用意していたのなら、ヒコイチはよけいだったうえに、《護り》がついていた箱を投げ壊した役立たずだ。



  「 そんなことはない 」



 のぞきこんでいた隙間がすこしだけひらき、黒いその中に濡れたようにひかるものたちがみえ、目をこらすとそれが人の目玉のようなものだとわかった。

 ぞっとはしたが、いやな寒気はしなかった。



「 あれはなかなかおもしろかったわい 」

「 喰えないが、ヒコイチの肝は太いじゃろうな 」

「 龍王さまもおどろくかのオ 」

「 箱はまたできるがヒコイチはつくれぬものなア 」


 ついではなく、大小さまざまにちらばっている目玉たちがみな、ヒコイチをみていた。


 見返してみても寒気がするどころか、なんだか気持ちが楽になってきた。



「 こりゃア よい旅じゃ 」


 貝の中のだれかが言って、ゆっくりと《くち》がとじると、白い貝はみるまに土へとしずんでゆき姿を消した。



 驚いてそこに手をのばそうしたヒコイチのみぞおちに、とつぜんかたいものがあたっておどろいて身をおこす。

 懐にまたいつのまにかあの箱があり、その蓋が、すう、とひらいた。



  「 まあ・・・、よろしゅう・・・たのむわア・・・」


 タニシのまのびした声がして、ヒコイチはくちをひきむび何度もふかくうなずいてから、着物の上から箱をつかむように、そうっとなでた。




 

  



  


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