釣り竿(ざお)か
せまってきた化け物のくちから、赤い大蛇のような舌がヒコイチをねらいのびた。
うねったそれが肩にかかろうというときに、横から赤い《釣り竿》のようなものがのび、風を切って振られると、竿が当たった化け物の首が、空にむかってとばされた。
っぎゃん
獣の鳴き声がして大入道の姿は消え、ひっくりかえった大きな獣の姿があった。
「 さても、大狸が歳を経て、ムジナなるアヤカシになるとは伝えきいてはいたが、人までとらえて喰うておるとはなア 」
その男の声はヒコイチの足元からきこえてきた。
みおろせば、あの白いかわったかたちの貝があり、その波打ったふちが合わさる貝の『くち』から、こえが出たようにきこえた。
あわててヒコイチは膝をつき、その貝をのぞきこむ。
「いや、あのタニシのご隠居さんは、どこに行っちまった?あんた、誰だい?」
すると、貝の隙間から、耳に心地よいわらいごえがもれ、「『タニシのご隠居』どのは、ここにおわすぞ」とまたすこし貝がひらいた。その隙間から、さきほど化け物をたたき飛ばした《釣り竿》の先がでて、ヒコイチの腕や肩をさぐりあてると、もう一本同じ竿がとびでてきてこちらの頭のさきをたしかめるように数度たたいた。
釣り竿じゃねえ・・・
それは釣り竿ほどの太さだが、竹でもなく木を継いでながくなっているわけでもなさそうで、先の細いほうがしなやかに曲がってヒコイチの血がでている足までさぐった。
目の前でうごくそれをよくみれば濃い緋色のそれには、フジツボのような貝のような、白くかたそうなあつまりがついている。




