煙管(キセル)のぞく
ヒコイチはその箱に目をよせた。
箱からつきだして煙をだす光るものは、爪楊枝ほどの煙管だった。
「ああ・・・んまりィ・・・寄らんでエ・・・なア・・・わしゃア・・・みられるウとオ・・・恥ずかしゅう・・・テなあ・・・」
「ああ、わるかった・・・その、あんたがほんとに、あの、・・・タニシなのかどうか、きになっちまってな」
ほんとうにこの箱の中に、煙管を吸うタニシがはいっているのかどうか、ヒコイチはみたくてたまらなかった。
箱の中から、かすれた、紙をくしゃくしゃと丸めたような音がして、それが笑い声だとようやくきづいた。
どうやら、タニシはしゃべり方や声からして、かなりの年よりのようだ。
「おオまえさん・・・めずらしイ・・・おひと・・・じゃのオ・・・」
「はあ、いや、あんたよりは珍しくもないとおもうけどよ」
そこでまた、紙を丸めるような音がして、馬が、ぶるる、と首をゆする。
ちり ちり ちりん ちりちり ちりりん
さがっていた鈴がいっせいにゆれると、巻き上がるような強い風が草地をわたりヒコイチにあたってきた。
びょうおう、と音がするようなそれに顔をしかめたら、鈴の音がやみ、馬の姿がないのに気づく。
「お・・・お?」
みぞおちのあたりになにかが当たり、ヒコイチの懐に重みがくわわった。
「・・・まあ・・・よろしゅう・・・たのむわア・・・」
むりに懐へおしこまれたような箱のふたの隙間から、間延びした小さな声がそういって、そろりと蓋がとじられた。