道にあらわる
ちり ちり ちりん
また、鈴の音がしたような気がして、からだが固まる。
あたりをみまわし、用心しようとしたとき、ちりんちり、という音が、こんどははっきりときこえた。
むこうからか・・・・
その音は、モヤのむこうから、―― 近づいてくる。
ヤオビクニである『先生』の知り合いなのだ。それなりに《不思議な力》もあるだろう。
もしかしたら、タニシからヒトへ姿をかえられるのかもしれない。
いや、それがあたりまえか。
山からつながったこの道で待っていてくれといわれたのだから、《道》をつかってやってくるのだ。 空をとんでくるのでも、いきなり現れるのでもなく、「 ―― もうすぐあの山をこえて着くはずですので」と、『先生』はヒコイチに山の場所を教えたのだから。
てエ、ことは・・・。
そうか。旅姿で『おりん』を鳴らしながら経をよむ、坊主の姿をしているのかもしれない。
なんとなく安心して動きながれるモヤをみつめていると、鈴の音が近づき、鈴とはちがう耳慣れた音もきこえてきた。
白いモヤの中、黒くおおきな影がせまってくるのがわかる。
・・・ちがう・・・坊さんじゃねえ・・・
おおきな影は歩く音をたて、もう、すぐそこにその姿をさらしていた。
・・・馬・・・だよなあ・・・