布団には
その布団は、四日前にヒコイチが、元締めのところからお屋敷へと、いつもの背負子で運んだ。
背負い箱に入れる前にみせてもらったその小さな布団は、ほんとうに絹で仕立ててあって、掛布団はひどく薄かった。
なにもきかずに布団をわたしてくれた元締めには、この布団はダイキチさんが『百物語』をして出会った人の《人形》のためのもので、ダイキチさんがつかうんじゃねえよ、といいきかせておいた。ヒコイチが眉間にたてたシワにくちをすぼめた元締めは、そりゃ下衆ばったことを言っちまって悪かったと、眉をさげ、「・・・その《人形》ってのは、もしや《生き人形》かい?」とはなしを聞きたそうに首をつきだしたが、それにはこたえず、ごまかしたままあとにした。
そう思ってくれていたほうが、ヒコイチとしてはありがたい。
『生き人形』のはなしは、不思議ばなしの本にもいくつかのっているだろうし、おかしな話しだが、生きている人形のほうが、布団は入用だろう。
だが、ほんとうは、布団にはタニシをいれる・・・
ヒコイチの知っているタニシは、田んぼか、その近くの水の中にいるものだ。
それがいったい、どうやって山道をやってきて、布団に寝るのだ?