つぶ
『先生』がダイキチに首をかたむけ、ほんとうにお手間をとらせてしまって、とわびるような顔をする。
「なにしろ、むかしからすこしわがままを言うおかたなんですけれど、めったに外にもでられませんから、きいてさしあげようと、毎度、こちらが骨おるような始末でございまして」
それが楽しいことであるように女はわらう。
「いや、こちらだって、お迎えするのが楽しみなんですから、手間だなんて思っちゃいませんよ」
ダイキチも言葉のままの顔でうなずいた。
「じゃあ、その『生き人形』をつれた方ってのが、『先生』のお友達ってことですかい」
ようやく合点がいって、眉をよせたままのヒコイチが腕をむく。
どこから来るのかしらないが、きっと『生き人形』に困り果て、『先生』をたよって来るのだろう。
いや、まてよ。
「・・・その、先生のむかしからのお友達ってエのは・・・いつぐらいからの・・・お友達で?」
ヤオビクニ仲間なのだろうか?それでも、『生き人形』には、困るのか。
いやですよ、と先生が若いむすめのようにかわいく口元をおさえた。
「『生き人形』はつれておりませんし、『桐箱』は、海にも川にも流しません。 中におさめた布団で休むのは、人形ではなく、ここに来るわたくしの古いしりあいでございます」
「・・・そのひとが、・・・赤ん坊くらいの大きさってわけじゃねえでしょ?」
ええ、と『先生』はほがらかにうなずいた。
「赤ん坊ほどの大きさもございません。 なにしろ ツブ でございますから」
「・・・・なにですって?」
「 ツブ、 タニシ でございますよ。 ああ、でも、わたくしが初めてあったときよりは、すこしおおきくなってきているようでございます」
先生は仔犬のはなしでもするように、ヒコイチとダイキチにゆったりとうなずき、鞠をかかえるほどに両手をひらいてほほえんだ。