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『近い。半径5メートルに入ってる』


「厳しいな」


 女性に宿の部屋を突撃された後。

 私は騎士に説教をし、それが終わってから調査を開始した。

 

 調査するのは、この土地にある「炎の川 プレゲトーン」の場所だ。


『ここも違うか…………』


 神聖な場所や曰くつきと言われている場所を中心に回っているが、なかなか新しい発見はない。覚悟はしていたものの、やっぱり徒労に終わると心にくるものがある。


「今日はもう暗い、帰ろう」


『そうだね…………さりげなく手を握ろうとしない』


「バレたか」


 昨日から接近禁止令を騎士に出しているのに、効果が薄すぎる。

 でも、私は諦めない。

 もう二度と、騎士の痴情のもつれに巻き込まれないためにも…………!







 数日間、川探しは膠着状態に陥っていた。

 しかし、ある吉報がやってきた。


「おい、馬鹿ピエロ」


『開口一番が悪口』


 窓から入って来た不法侵入者。

 加えて口も悪いときたら、もはや救いようがない。


 そんなオクトは、何か小さな袋を持っていた。


「これ、ボスから」


 渡された袋を開けてみると、シンプルなチョーカーだった。

 黒いベルトみたいなデザインをしている。


『…………魔道具?』


「それにお前の力を込めたら、一定時間以上騎士と離れていられるらしい」


『それほんと!?』


「じゃあな」


『同僚がドライすぎる』


 やることはやったと、オクトはさっさと帰った。

 なんて薄情な同僚なんだ。

 ちょっとくらい心配してくれても…………いや、されたらキモイかも。


 十分酷いことを考えながら、そのチョーカーを手で握る。


 だんだん黒から白になっていくチョーカー。

 そして、完全に白になった時点で力を込めるのをやめた。


(これ以上やったら、ほんとに消しちゃいそうだな)


 過充電はよくないと、握りしめていたチョーカーを机の上に置く。

 

 バンッ


『うわっ!びっくりした…………』


 そのタイミングで、騎士が部屋に入ってきた。

 心なしか、騎士の顔が恐い気が……。


「誰が来ていた」


『え、誰って、オクトだよ。ほら、いつのボスの傍にいる人』


 その答えに、騎士は何の反応もしなかった。


「………………」


 騎士の視線が机の上にいった。

 どうやら、チョーカーに気づいたらしい。


『丁度よかった。このチョーカーつけてみてよ』


「……………嫌だ」


『拒否権はないよ』


 チョーカーを持って、騎士の正面に立つ。

 そして、腕を騎士の首に回した。


 拒否したわりには、何の抵抗もしない騎士。

 でも、こちらとしては好都合だ。

 背の高い騎士の首に懸命に腕を伸ばしながら、チョーカーの留め具を調整する。


 そして、なんとかチョーカーをつけ終えた。


『これで、私と騎士は一定時間以上離れることができるようになった!』


「そうか」


『反応薄っ!』


 思ったよりも反応が薄い。

 一体何を考えているのやら。


「俺はレテの傍を離れないから、関係ない」


『関係ある』


 どうやら、どうあっても私の傍を離れるつもりがなかったからのようだ。

 こちらとしては離れたい一心なのだが。


『とにかく!これからは個別行動ができることになったから、調査の効率が上がること間違いなし!』


 無理やり話を終わらせ、明日に備えて早めに寝る準備をした。


 ……え?今、何時なのかって?

 勿論、お昼丁度ですけど何か?

 大丈夫、私は丸1日寝ていられるタイプだから!

 















『え?資料の閲覧ができない?』


「大変申し訳ございません」


 私たちは今日、図書館に来ていた。

 フィールドワークを一旦休止し、資料を探してみることにしたのだ。 

 しかし、そこですぐに壁へぶち当たることになる。


「炎の川は神聖なものですので、情報統制されているんです」


『なるほど……』


 これは困った。

 情報があるのに見れないとは。


 最悪『イドラのサーカス』でどうにかするけど、やっぱり正規ルートで情報を得た方が気持ち的にいい。


『なにか閲覧の条件があるんですか?』


「そうですね。この土地の由緒ある一族の方と親しければ、閲覧できないこともないと……」


『そうなんですね!ありがとうございます!』


 隣でジッとこちらを見ていた騎士の腕をとり、すぐに図書館から出る。


 



 外に出た私は道端にあったベンチに座り、そのまま思考の海に沈んだ。


(ここに知り合いはいないし、やっぱりボスに頼んでみる?いやでも、こっちの都合でボスを利用するのはなんか不正してる気分になるし、なによりヤツ(厄介オタク)が黙ってない。オクトの説教は長い上、ネチネチしてるから嫌なんだよな……)


 結論、この土地で身分の高い人をとっ捕まえるしかない。

 なにかのパーティーに参加できるよう、ボスに頼るのはありかな……?


 ぐるぐると考えが回っていると、私の顔に影が落ちた。


『?』


 前を見ると、見覚えのある兵士が。


『…………あの時のパシリさん?』


「……何を言っているんだ?」


 やはりそうだ。

 この声は私の部屋に朝から突撃してきた兵士だ。


『———ってなるとやっぱり』


 後ろに顔を向けてみると、想定通りの状況だった。

 

 騎士があの美人さんに捕まっている。

 両手にもったカップから予測するに、飲み物を買いに行っていた途中で捕まったのだろう。


『…………苦労してますね』


「どうだろうな」


 改めて兵士の姿を観察してみる。


 筋肉で引き締まった体に、浅黒い肌。

 髪は茶色で、エメラルドのような緑色の瞳をしている。

 意思が強そうな吊り上がった眉をしており、凛々しい男前だといえる。


 服装は上がピッチリした布でできた露出多めの暗殺者みたいな服で、下はニッカポッカみたいな形のズボン。身軽そうな雰囲気をビシビシと感じる。


『アラビアンナイトって知ってます?』


「?」


『あ、やっぱなんでもないです』


 どうやら、似ているだけであちらの世界と同じではないらしい。

 元の世界と似ていたものを見つけてしまって、ちょっと心が浮ついてしまった。


「君、あれは止めなくていいのか」


 兵士が指差した先には、じっとこちらを見ている騎士とそんな騎士にアプローチをかけまくっている美人さん。


『ああ。まあ、大丈夫ですよ』


 しれっとした様子の私を、兵士が心配そうに見てくる。

 一体彼は何を心配しているのだろうか。


「彼は君の恋人じゃないのか」


『え!?違う違う!』

 

 とんでもない誤解に、手と首を両方とも横に振る。

 そんな全力の否定に、兵士は目を見開いていた。


「違うのか?」


『彼は、そう!仕事の同僚なんです」


 あながち間違いではない。

 まあ、職場は『イドラのサーカス』とかいう表で口に出せないようなとこだけど。


「そうか……。それならよかった」


 ほっとした様子の兵士に、疑問をぶつける。


『なんでですか?恋人だったら何か不都合が?』


「それは———」


 ガシッ


『うわあッ!!』


「!」


 突然、視界が暗くなった。

 さらに、首に何かが巻き付いているという最悪な状態。


 手探りで首にあるものを触ってみると、どうやら人の腕だとわかった。


「何の用だ」


(お前か騎士……!!)


 耳元で聞こえてきた声で、犯人が判明する。

 しかし、視界不良のせいで状況がわからない。

 一体どんな状況なんだ!


「失礼した。私はラヴァ一族に仕える者、アッシュと申す」


 丁寧な自己紹介を聞き、初めて兵士の素性を知る。

 

 でもさ、兵士さん。

 なんで私にはその丁寧な自己紹介をしてくれなかったんだい?

 なんかナチュラルに話しかけてきてなかった?


 騎士との対応の差に多少不満を持ちながらも、彼らの会話に耳を傾ける。

 すると、また違う人物の声が聞こえてきた。 


「お待ちになって、ダーリン!」


 美人さんの声だ。

 声すらも華々しいだなんてすごすぎる。


「姫様、彼は」


「あら、嫉妬しなくても貴方のことも愛してるわ」


「…………」


 ふむ、どうやらこの女性は逆ハーレムを築いているようだ。

 確かに、男性を虜にできるほどの美貌だし納得。


「さ、ダーリン。私と共に宮殿へ行きましょう」


『宮殿!?』


「…………貴女には言ってなくてよ」


『ちょッ、タイムで!』


 両腕を+の形に組んで、彼らに待ってもらう。

 そしてすぐに、後ろへこしょこしょと話しかけた。


『ちょっと、騎士。あの人もしかしてこの土地の由緒ある一族?』


「…………そうだな」


『それも宮殿もってるくらいの力のある一族』


「…………ああ」


『よし、行ってこい』


「断る」


『お願い!お礼になんでも(ただし可能な場合のみ有効)言うこときいてあげるから!』


 必死の説得の末、なんとか騎士が宮殿に行くことを了承した。

 やったぞ……。これで図書館の閲覧許可がとり放題だ!


「レテ、アンタも一緒にな」


『…………え。私は図書館で』


 トントンと自身の首を指す騎士。

 呪いのことを指摘されると弱い。

 例のチョーカーで一定時間以上離れられるようになったとはいえ、正確な時間はわかってない。それにここで別れてしまえば、あの美人さんが騎士と簡単に会わせてくれないような気がする。


『わかった、ついていくよ……』


 美人さんからはすごい目で睨まれたが、背に腹は代えられない。

 

(安心してください!騎士には一切関与しませんから!)


 彼女の逆ハーレムをかき回したいわけじゃない。

 宮殿についたら大人しくしていよう。

 重要なのは、図書館の閲覧許可をもぎ取ることだけだ。

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