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14 不本意な同伴者とカルメンへ



『で、結局こうなると』


「レテ、あそこの果物がおいしそうだ」


『はいはい、後でね』


 再び、私は情熱の大陸カルメンへお邪魔していた。

 今度は、一人ではない。


「レテ、楽しいな」


『いや、これバカンスじゃないからね?』


 同伴者は、このウキウキわくわくしている騎士。

 調査のために来ていることを忘れてもらっては困るんだけど。


「レテ、首輪が……」


『え、また!?』


 慌てて騎士の頬に手を添える。

 すると、騎士は穏やかな顔でその手に頬を寄せた。


「うん、苦しくなくなった気がする」


『そっか、ならよかった』

 

 すっと手を戻そうとすると、騎士の手が私の手を掴んだ。


「まだ、苦しい」


『いや、だから、その……』


 子犬のような目でこちらを見てくる騎士。

 首を少し傾げているのもあざとさ全開だ。

 

 しかし、私にも退けない理由がある。


『ここ往来ーーー!!!』


 叫ぶ私の周囲には、大勢の野次馬が集まっていた。


 まあ、それも仕方のないことだった。

 なにせ、騎士の顔が良い。

 その上、こんな衆目の前でバカップルみたいな茶番をやっているのだ。

 私だって野次馬すると思う。


『ほらっはやく!はやく行くよ!』


 必死に騎士の腕を引っ張っていた私は知らなかった。

 騎士が物凄い睨みで周囲を威嚇していたことを。

 そのおかげで、私たちがスムーズに宿に向かうことができたことも。


 しかし、私たちは大きなミスを犯した。

 あの騒ぎが、厄介な人物を引き寄せてしまったのだ。


「ふ~ん。あの男、欲しくなっちゃった」


 真っ赤なルージュが密かに弧を描いた。













「お迎えにあがりました」


『…………え、誰?』


 宿で一泊した朝。

 ノックの音が聞こえてドアを開けると、知らない兵士が立っていた。


「貴方のお連れ様はいらっしゃいますか」


『え、ああ。騎士……じゃなくてセティなら隣の部屋ですよ』


 危ない、いつものように騎士と呼んだらダメなんだった。

 ここに来る前、騎士のことは『セティ』と決めたことを忘れかけてた。


 しかし、騎士に一体何の用なんだろう。


「左様ですか。しかし、先程隣の部屋を伺った時はいらっしゃらなかったのですが」


『え?う~ん、……もしかすると少し出かけたのかもしれません』


 朝のジョギングとかに行ってるのかも。

 でも、そう長くはないだろう。

 なんせ、呪いで一定時間私の傍を離れることができないからね……。


『多分、すぐ戻ってきますよ』


「そうですか。では、下で待機させてもらいます」


『お勤めご苦労様です』


 去っていく兵士に、憐憫の目を向ける。

 朝っぱらから使いっ走りにされる姿に、同情の念が禁じ得なかったのだ。


 可哀想な被雇用者を見送り、部屋に中に入る。

 ドアにカギをかけて前を向くと、窓から日差しが入っていた。


(朝なのに容赦のない日光だ……)


 午前中に動き回るのは危険だと判断し、私はすぐにベッドにダイブした。


(ちょうど騎士に用のある人たちはいるみたいだし、騎士が帰ってくるまではゆっくりしよ~)


 のびのびとベッドの上を転がっていると、ふと何かの気配を感じる。


 寝転がったまま、そっと首を上に動かした。


「なんだ、もうやめるのか」


『…………スゥウウーーーー』


 ベッドのヘッドボードに腰掛ける騎士は、悪びれもなく私を見ている。

 私は全ての感情を、ひとまず肺に押し込んだ。


 そして—————。


『騎士ぃいいいいーーーーーッ!!!』


 渾身の叫びを出した。

 叫んだ後に近所迷惑ということを思い出したが、騎士がすでに対策をしていた。

 

 防音の魔道具を起動させる余裕があったなんて、本当に癪にさわる。

 というか、なんで防音の魔道具を持ってんだ。


「この魔道具は備え付けのものだ」


『なるほど、素晴らしいアメニティだ———じゃないわ!』

 

 ツッコミの勢いで体を起こす。


『いつから!?いつからここにいた!!』


「昨日から」


『え?隣の部屋で寝たんじゃないの?』


「レテの寝相はいいんだな」


『ちゃっかり隣で寝てんじゃねぇええーーー!!』


 その日の全ての気力を使い切った私は、またベッドに沈んだ。

 そして、その日の午前は二度寝(ほぼ気絶)をして過ごした。


 

 




 バンッ


『え?え?』


 昼下がり。

 騎士が調達してきた食べ物を食べている最中のことだった。


「ごめんあそばせ」


 宿の部屋のドアがすごい勢いで開かれた。

 そして、入って来たのはナイスバディな女性。

 この土地特有のゆったりした布の服装。


 アラビアンなその衣装は、結構な露出がされていて目の置き所に結構困る。


『ど、どちら様ですか……?』

 

 その女性へ、慎重に質問をする。

 ほら、こういう人って敵に回したら怖そうだし……。

 

 しかし、私の質問は華麗にスルーされた。


「あら!ここにいたのね、ダーリン!」


「…………」


『!?』


 彼女の視線は、私の隣に注がれている。

 ……どうやら騎士は、もう女性をひっかけてきたらしい。


 くそっ!このモテ男め……。

 私だってこんな美人にチヤホヤされたい!


「ダーリン?ハニーのこと忘れちゃったの……?」


(あざとーい!あざと可愛いー!)


 女性の渾身の上目遣いが決まったー!

 これには男性陣、一撃コロリだー!

 私も天に召されてしまうー!


 熱烈な実況を脳内で繰り広げていると、私の腰に腕が回って来た。

 …………果てしなく嫌な予感が。


 グイッ


『うわっ!』


「!?」


 女性が驚いた顔をしており、私の顔も同じようになっているはずだ。

 なぜなら、騎士が私を膝の上に乗せたから。

 横座りだから、騎士の様子も女性の様子もしっかり見えてしまうポジション。


 そして、騎士は鬼畜だった。

 この状況に火に油を注ぐタイプだったのだ。


「ハニー、あの女がおかしなこと言ってる」


『!?!?』


「…………は?」


 やめろ、巻き込むな。

 騎士の言葉で、なんで私が美人から睨まれないといけないんだ………!


「ハニー、早く続きをしよう………?」


『……………………』


「は?」


 意味深にベッドへ視線を向ける騎士。


 美人の顔がすごいことになってる。

 私はもう、口から魂が抜けていってる。


「…………っ!貴女、覚悟しておきなさい」


『……………………』


(もう、どうにでもなれー)


 たった数分で、女性から恨みを買うことになった。

 それもこれも、この目の前の騎士のせいで。


「守ってくれてありがとう、ハニー」


『…………そこになおれバカ騎士ぃぃいいいーーーー!!』


 この時、私は決意した。

 もう二度と騎士を傍に近付けない、と。

 



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