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第9話「私、偉いですか?」

 なんとか少女を大人しくさせたリュールは、宿場町へと続く門に向かった。柵や塀があるわけではなく、街道沿いに小さな関所がある。その程度のものだ。

 大きく開かれた本道は、それなりに治安がいい。盗賊と成り下がった傭兵も、この規模の町を狙うことはない。旅人に紛れ込んでスリや空き巣をすのが限界といったところだろう。よほど怪しい者でなければ、関所も素通りできるくらいだ。


「おい待て」

「あー」


 ガラの悪い男と、外套で顔を隠した少女の二人連れは、よほど怪しい者だったようだ。さっきまで欠伸をしていた若い門番が、ここぞとばかりに立ち上がった。威圧するように、短めの槍を片手に持っている。


「荷物を見せろ」

「へいへい」


 リュールは荷物を広げる。何の変哲もない野営の道具と保存食、あとはそれなりの路銀くらいだ。


「ふん」

「特に問題ないだろ?」


 門番は、異常がないことに不満げに鼻を鳴らす。少しイラッとするが、ここは我慢だ。


「あと、連れの顔も見せろ」

「仕方ねぇなぁ、おい」

「はい……」


 リュールは軽く少女を呼ぶ。しっかり元気のない演技をしてくれている。さっき指導した甲斐があってよかった。

 他の通行人に見られないように、少女の顔を隠す外套を少しだけまくる。白い肌と、乾いて赤黒くなった返り血が陽の光にさらされた。


「おい、これは……」

「盗賊に捕まってた子を助けたんだ。この町で身請けしてくれる所を探そうと思ってな」

「そ、そうなのか?」

「はい……助けて、いただきました……」


 たぶん血をあまり見たことがないのだろう。門番は露骨にうろたえていた。リュールには好機を感じた。


「あんまり騒ぎにしたくなくてな、これでなんとか、な?」

「あ、ああ」


 門番の手に、数枚の硬貨を握らせる。決して多くはないが、今晩の酒代にはなる額だ。

 ある程度の交渉をした上で、最後のひと押し。これが割と有効なのは、これまでの生活で学んだことだ。


「わかったよ、行っていいぞ」

「ありがとよ」


 リュール達は門を抜け、町の中に入る前。石材と木材を組み合わせた、大きな特徴のない町だ。宿場町なんてそんなもんだろう。

 とりあえず、宿を探して少女の血を洗い流さねば。今後のことはそれからだ。


「あの、リュール様」

「ん?」

「さっきの人ですね、とっても失礼でした」


 隣を歩く少女が、顔を隠したままリュールを見上げる。どうやら門番の態度に腹を立てているようだった。


「あんなもんだろ」

「いえいえ、私のリュール様にあんな暴言を吐くなんて。命を奪われても仕方ありません」

「まぁ、落ち着けよ」


 怒りに身を震わせているようで、大声は出さない。リュールの言いつけはしっかり守っていた。


「でも、でもですね、私は我慢しました」

「そうだな」

「そ、それでですね」

「ん?」


 一瞬下を向いた少女は、再びリュールを見上げた。


「私、偉いですか?」

「あ、ああ、偉かったな」

「そうですかー、うへへー」


 なるほど、とリュールは納得する。褒められたかったわけだ。剣を名乗る少女は、本物の少女のように照れ笑いを浮かべていた。

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