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愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る  作者: 日諸 畔
第5章 魔剣と魔人

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第79話『やることは決まっているのでしょう?』

 額に響く衝撃と痛みは、全身の傷とは違う類のものだった。鼻筋を伝って顎に垂れる血はすぐに止まる。しかし、そこに残った熱は消えることがなかった。


「ブレ……イダ……?」

「リュール様が、私を、黒くしてどうするのですか!」


 目前の少女は朱色の瞳に涙を浮かべ、震える拳を握ってこちらを睨んでいる。その名を呼んだのにも関わらず、剣に姿を変えることはなかった。

 魔剣は自ら戦う意志を持った際に、人から剣の姿となる。その合図として名を呼ぶが、それはあくまでも言葉に過ぎない。いつかレピアから聞いた話だ。

 つまり、今のブレイダはリュールの手によって戦うつもりがないということだ。その理由は彼女の一言が全て説明していた。


「あ、ああ……」

「はい、立ってください!」


 差し出された細く滑らかな指を、傷にまみれた太い指が握る。剣のものとは到底思えないほど、温かく柔らかかった。リュールの身体に刻まれた大小様々な傷が、瞬時に癒えていくのを感じた。


「リュール様の思い出は、言葉ひとつで消えてなくなるものですか?」

「あ、ええと……」

「消えません。あの人のことを知らない私でさえ知っているのです。嫉妬するくらいです、もう」

「そうだな」

「わかって頂けたのなら、いいのです」

「ああ」


 自分の剣に叱られてしまった。自嘲気味に笑うリュールの掌を、ブレイダは強く握る。そして、主人の巨体をいとも容易く引き上げた。

 リュールは彼女の銀色に輝く髪に、目を奪われた。それはまさしく、長年連れ添った相棒が変化した少女だった。


「やることは決まっているのでしょう?」

「そうだな」


 立ち上がるまでの間にも、周囲では激しい戦いがふたつ繰り広げられていた。気持ちを落ち着かせたリュールは、瞬時に状況を把握した。


 ひとつはレミルナとトモルだ。正確無比な槍撃を白と黒の剣で受け流している。魔人同士の戦いは熾烈を極めていたが、レミルナの方が優勢に見える。

 二振りの魔剣から力を得た魔人は、強かった。白と黒という、方向の違う感情を受け止めるのは、恋と戦いを並列に進める彼女ならではの芸当だろう。


 問題はもうひとつ。

 マリムはルヴィエにかなり押されていた。黒紫の剣を何とか受け流しているものの、防戦一方だだった。

 レピアの力を借り受けた剣とはいえ、マリム自身はただの人間だ。それが一時的にでも魔人を抑えている。リュールは彼の強さに驚嘆する。


「さぁ、行きましょう」

「ああ、ブレイダ」

『はいっ!』


 美しい少女は、リュールの呼び声に応えた。緋色の鞘に、使い込まれた柄には朱色の飾り石。

 魔人リュール・ジガンは、魔剣ブレイダを鞘から取り出した。白銀の刃が木漏れ日を受けて煌めいた。


『スカしがそろそろ限界です』

「ああ」


 ブレイダの進言と同時に、リュールは前方へと跳躍した。


「そろそろ名前で呼んでやれよ」

『いえ、あいつの名を呼んでいいのはレミィだけですから』

「なるほど、な!」


 短い会話を交わし終わった時、リュールは刃をぶつけ合う二人の男に割り込んだ。黒紫の剣をブレイダでしっかりと受け止める。


「待たせた。マリム」

「遅いって、リュール」


 リュールの姿を認めたマリムは、その場に座り込んだ。限界が近いというよりは、限界を超えていたようだった。

 剣と剣の向こう、親友の顔が見える。その表情は、笑っているのか怒っているのか、複雑であり破綻した感情を物語っていた。


「リュール!」

「よう、親友」

「お前はぁ! なんだよ!」

「リュール・ジガン、お前の友達だよ」


 ルヴィエは受け止められた剣へと、更に力を込める。リュールは負けじと全力でブレイダを支えた。魔人同士の力はほぼ同じ。両者の剣は微動だにしなかった。


『死ねぇぇ!』


 ルヴィエの剣から怨念のような意思が伝わってくる。白銀の剣とその主人は、最早そんなことでは動じなかった。


『ねえ、私に似た剣。あなたのお名前は?』


 リュールの剣は囁くように、優しく問いかけた。

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