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第8話「ご命令なら仕方がありません」

 半日ほど歩くと、視線の先にぽつぽつと建物が見えてきた。街道沿いにある、それなりの規模をした宿場町。名前は知らないし、そんなに興味もない。とりあえずの目的地だ。

 当初の予定では、しばらく滞在するつもりだった。人が多ければ、用心棒を求める情報も手に入りやすい。戦後のリュールは、この方法で生き延びてきた。

 

 リュールが町に向かうのは、少女を身請けしてくれる場所を探すという目的もある。この見た目であれば、料理店の看板娘にでもなれるだろう。

 剣ということになっているが、少女は少女だ。危険と隣合わせの生活は送らせたくない。

 リュールの考えを伝えたら、きっと彼女は拒否する。説得する言葉を探してみても、思い付きはしなかった。


「おー、町ですねー」

「ああ、町だな」

「あそこに行くんですか?」

「ああ」

「やっとお手入れしていただけますね」


 少女の瞳が輝く。お手入れという言葉は気にかかるが、彼女を血で汚れたままにはしておきたくない。宿にでも行けば風呂場くらいはあるだろう。


「なぁ、町に入る前に、口裏合わせをしてくれ」

「はい?」

「普通の人間は、剣が人になったなんて理解できない」

「はぁ、そうでしょうか?」

「そうなんだよ」

「んー、おかしいのかなぁ」


 複数の細い街道が本道に合流する。その先には、簡易な門があるはずだ。

 門番に血まみれの少女を見られたら、確実に怪しまれる。場合によっては追い返されるかもしれない。運悪く王国の警備兵でも居ようものなら、その場で逮捕される可能性だってある。

 だから、今のうちにそれっぽい言い訳を考えておく必要があった。


「君は俺が盗賊団から救った少女だ。故郷の村は盗賊によって滅んだ」

「はぁ」

「その血は俺が盗賊と戦った返り血だ」

「はぁ」

「助けられた君には、帰る場所がない。だから俺と同行している」

「はぁ」

「ここまでいいか?」


 なんとも煮え切らない返事に、リュールは不安を覚える。本当にわかっているのだろうか。


「わかりました。嘘はつきたくありませんが、リュール様のご命令なら仕方がありません」

「ボロが出るといけないから、基本的には喋らないでくれ」

「はい、おまかせを」


 少女は、にっと歯を見せた。歯並びの良さに感心しつつも、リュールの不安は拭えなかった。


 町に近づくにつれて、人通りが増える。目深に外套を羽織った少女を訝しげに見つめる者も少なくない。

 奴隷商人とでも思われているのだろうか。用心棒として雇われるならば信用が重要だ。周囲から悪い印象を抱かれるのは好ましくない。

 とはいえ、外套の下は血だらけの美少女だ。たぶんそっちの方が怪しい。リュールは意図せず少しだけ歩く速度を上げた。それがいけなかった。


「待ってください、リュール様ー」


 少女のよく通る声は、幅の広くなった街道に響いた。複数の視線が集まる。

 喋るなと言ったのに。不安が的中したリュールは、頭を抱えたい気分だった。

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