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第4話「誇りを持っています」

 少女はリュールの顔を見上げ、誇らしげな表情を見せる。


「私はリュール様の剣であることに誇りを持っています。リュール様の剣術で、多くの人を斬り殺しました。リュール様が私を見初めてくれたおかげなんです」

「うーん、そうだな」


 少女の口から出るのは、程よく高く耳に心地の良い声だ。彼女がその声で口にするのは、物騒なことが多い。

 リュールの剣であるなら、当然の発言だ。自身を操るものが武功を立てれば、武器としての誇りとなる。それでも、可憐な少女が口にするのは抵抗感を覚えてしまっていた。


「あ、でもでも、一番好きなのは、お手入れしてもらう感覚です。私の身体を、リュール様が優しく撫でてくれたり、力強く研いでくれたり……うふふふ……」

「おいおい」


 恍惚とした表情で少女が語る。この見た目で言われると、単なる手入れが艶めかしい行為に感じる。それなりに経験してきたはずのリュールも、思わず照れてしまった。

 確かにリュールは剣を大切にしていた。命を預ける道具なのだから、手入れは欠かせない。

 それともう一つ、道具には魂が宿ると考えていた。完全に気持ちの問題ではあるが、愛を注げばそれに応えてくれるはず。そんな自分だけの感覚を信じていたのだ。


「町に着いたらまたお手入れしてくださいね」

「いや、それはどうかと」

「えー、酷いですー」


 そもそも剣でなくなった少女を手入れするというのは、一体どういうことなのだろう。

 清潔な布で撫で回し、錆止めの油を塗り付けることだろうか。それとも、水と共に砥石に擦り付けることだろうか。

 無垢に見える少女の身体に触れることは、どうしても躊躇いを持ってしまう。恋人でも妻でもなく、剣を名乗った見知らぬ少女なのだから。


 柄にもなく物思いに耽っていたリュールは、妙な気配を察知した。カサカサと、小さな音もする。


「止まれ」

「へぶ」


 隣を歩く少女を左手で制止する。軽装皮鎧の手甲部分に、ちょうどよい高さの鼻をぶつけていた。

 次の瞬間、リュールの眼前を短い矢が通り過ぎる。止まらなければ串刺しになっていたことだろう。


「まずいな……」


 リュールが回避した矢は小弓から放たれるものだ。射程は短いし、威力も低い。しかし、遮蔽物の多い森で使うには小回りが利いて有用だ。つまり、相手は慣れているということだ。

 リュールは少女の顔を、着せていた外套で隠した。矢を射ったのは、恐らく彼女を見せてはいけない相手だ。


「テメェ、勘がいいな」


 街道の左右に茂る森から数人の男が出てくる。それぞれ鎧やら兜やらを纏って、手には思い思いの武器を持っていた。

 手斧が一人、長剣が一人、短剣が一人、小弓が二人。

 声を出したのは、顔を隠す兜を被った手斧の男。恐らくリーダー格だと判断できる。


「身ぐるみ置いていけ。勘の良さに免じて、命は取らねぇよ」


 お決まりのセリフを吐く大柄の男。

 信じられるわけがない。仮に本当だったとしても、少女の顔を見ればそうも言っていられないはずだ。捕らえて慰みものにしてもいいし、売ればかなりの額になると予想できる。


 リュールの腕であれば、この程度の連中どうということはない。ただ、今はだめだ。愛用の剣は、隣にいる。


 こいつは困った。

 リュールは軽く息を飲んだ。

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