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第31話「もう我慢できません!」

 レピアと呼ばれた片手剣は、ブレイダに酷似した特徴を持っていた。外見上の年齢は少女と妙齢の女性くらいには違っているものの、髪と瞳の色はほぼ同じだ。そして、その人間離れした美しさも。


「初めまして。レピアと申します」

「お、おう」


 レミルナからリュールに向き直ったレピアは、再び頭を下げる。長い銀髪が肩からはらりと落ちた。

 ブレイダ以外にも人になる剣が存在する事実に、リュールはまともな返答ができなかった。これは、予想外の事態だ。


「あー、リュール様、よその剣に見とれていますね!」

「いや、それは別に」

「美人で大人っぽくて色々大きいからって。片手剣なのに、なんですかもう」

「いや、違うから」

「いいですよ! 私の方が長いし幅広いし、剣としての殺傷能力は高いですし!」

「おい」

「あっ……」


 ブレイダの妙な対抗心により、シラを切ってきた態度が台無しになった。リュールは頭を抱えた。


「仲良しを見せつけるのは良いとして、こういうことなんだよ」


 相変わらず口元だけ笑ったマリムが、勝ち誇ったように告げた。


「レミィの剣が人になったのは、五年くらい前かな。今では魔獣を駆除するための貴重な戦力だよ」

「知っているどころか、子飼いにしていたと?」

「そう、彼女の姿を見た時には、ほぼ確信していたよ」

「裏取りのために、俺を村にやったわけだな」

「理解が早くて助かる」


 リュールはマリムを睨みつけた。効果はないとわかってはいるが、見透かされるのは不快だった。感覚的に、交渉相手という対等の立場は維持するべきだと判断していた。


「あーもう我慢できません! 騎士団長だか知りませんけど、リュール様に失礼なんですよ! そのスカした態度とか!」


 ついに限界を迎えたブレイダが机を叩いた。突然の反撃に驚いたのか、マリムは目を丸くしている。初めて見た感情的な表情に、リュールは少しだけ溜飲が下がった気がした。


「そもそもですね、リュール様はあなた達の指示に従ったわけじゃないんですよ! お金と、魔獣でしたっけ? あれに苦しむ人を助けるためにやったのです!」

「えーと」


 マリムが視線を向けるが、リュールはあえて無視をした。ブレイダの怒りは止まる様子を見せない。


「だから、あなたはリュール様に頭を下げ」

「言わせておけば!」


 今度はレミルナが机を叩いて立ち上がった。身長は女性の平均くらいだろうか、小柄なブレイダよりも頭半分ほど大きい。


「マリム様も心を傷めておられるのだ。魔獣とまともに戦えるのは私とレピアだけという状況で、いかに辛い思いをされてきたのか想像できるか?」

「む、横槍ですか。レミィとか言いましたね。私はこのスカしに言っているんです。引っ込んでてください」

「な、なんて失礼な!」


 銀髪と赤髪が互いの主張をぶつけ合う。女の戦いとはこういうものかと、リュールは苦笑してしまっていた。


「なんですか、そんなにスカしを庇うってことは好きなんですか? ちなみに私はリュール様が大好きです」

「ああ好きだよ!」

「うわ、正直!」


 レミルナの顔が髪と同じような色に染まる。

 再びマリムと目が合った。さすがに無視するのは不憫にも思えた。しかし、無視をした。


「くそう、まさか素直だとは」

「でもなかなか振り向いてもらえないんだよ!」

「それはひどい」


 言い合いの方向性が変わっているのに、当人たちは気付いていないようだ。なぜか巻き込まれてしまったマリムは、手で顔を隠していた。


「はい、そろそろ本題に戻りましょうか」

「ひゃっ」

「うわっ」


 これまで黙っていた青い服の銀髪が動き出した。レピアはブレイダとレミルナの頭をそれぞれ抱き寄せた。豊満な胸に埋まり、呼吸を阻害されているようだった。


「それでは、失礼しますね」


 リュールとマリムに向かって笑顔を浮かべたレピアは、剣と女騎士を抱えたまま、応接室から出ていった。


「さて、続けようか」

「凄いなあんた……」


 マリムは再び口に笑みを浮かべて見せた。リュールはその切り替えの速さに感心した。

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