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第13話『リュール様、ありがとうございます』

 窓の木枠から陽の光が差し込む。

 リュールが目覚めた時、腕の中には愛用の大剣があった。


「そうか」


 昨晩までの少女の姿はなく、機能性だけを重視した無骨な作りの剣と鞘。昨夜のうちに着替えたのか、リュールの服は畳んで置いてある。


「律儀な奴だな」


 独り言は、木製の壁に吸い込まれた。静まり返った二人部屋は、昨日の騒がしさが嘘のようだった。

 リュールは馴染んだ柄を手に取り、鞘の留め具を外す。見慣れた刃は朝日を浴び、あの少女の銀髪のように輝いていた。

 なんの変哲もない剣が美しい少女になるなど、まるで夢か幻のようだった。それでも、あれは事実だったとリュールは確信している。少女が寝ていたはずのベッドに、赤い髪紐が落ちていたからだ。


 彼女、いや剣は、手入れをされるのが好きだと言っていた。宿に着いたらして欲しいとねだるくらいに。剣に戻ったのなら、その期待に応えてやろう。

 汲んでおいた井戸水で布を濡らし、全体的に拭う。手持ちの砥石で、刃を整える。所々刃こぼれしているが、しばらくはこのまま使えそうだ。腕のいい研ぎ師を見つけたら預けよう。

 仕上げに、油を染み込ませた布で全体を拭く。これで簡単には錆びることはない。


『リュール様、ありがとうございます』


 彼女の声が聞こえた気がした。


「よし、行くか」


 鞘に収めた剣を腰に吊るし、リュールは部屋を後にした。まずは町の役場に行き、用心棒の募集がないか確認することにしよう。


「あれ、あんた、あの子は?」


 宿を出る際、受付の女性から声をかけられる。少女のことを随分気にかけてくれていた。


「寝てるよ」

「そうかい、優しくしてやったんだろうね?」

「そりゃ、な」


 剣に戻ったなどとは言えず、雑な嘘で誤魔化した。少女が居ないことを知ったら、きっと怒られてしまう。リュールは苦笑いをするしかなかった。


 役場の求人掲示板には、用心棒の募集は見当たらなかった。傭兵崩れの盗賊対策には、国の正規軍も動いている。そろそろ別の食い扶持を考えなければいけない時期なのかも知れない。


「おっ」


 そんな中、ひとつ興味深いものがあった。


【害獣退治求む】


 張り紙には、そう書いてあった。場所は歩いて二日程の農村だ。詳細は現地で説明があるとのことだ。

 害獣と言えば、猪くらいだろう。罠を用意して大剣があれば退治は難しいものではない。礼金も内容にしては多めだった。

 とりあえず、これで食い繋ごうか。このまま別の案件が見つからなければ、明日にでも出発しようと決めた。


 夜になると、リュールは酒場にむかった。そこで聞き耳を立てるのが、情報集めには都合がいい。気になる話をしている連中がいれば、酒でも奢って詳細を聞くのだ。

 しかし、残念ながら今日の収穫は芳しくなかった。用心棒を欲しいという場所はあまりないらしい。その代わり、獣害に困っているという農村があるとの情報が多数あった。

 猪なのだが、作物を食い荒らすだけでなく家を壊し人を襲うそうだ。そこで腕の立つ者が求められている。それならば、しばらくは飯の種になりそうだ。


 一通り話を聞き終わり、リュールは宿に戻ることにした。二人部屋の金は惜しいが、今更どうしようもない。

 頭を掻きながら歩いていると、慌てるように走る者とすれ違った。皆、怯えた表情をしている。


「何があったのか?」


 一人捕まえて声をかけると、その男は引きつった顔をして答えた。


「猪だよ」

「は? 猪?」

「そうだよ! あんたも早く逃げろ!」


 リュールの腕を振り払うようにして、男は走り去っていった。男が走って来た方を向いたリュールは柄にもなく驚愕した。

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