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第1話「リュール様の剣ですが」

 百年続いた戦争が終わった。


 だが、そんなことは大きな問題ではない。今年で三十歳になるリュール・ジガンは、目の前の現実が理解できなかった。


「あ、リュール様、おはようございます」

「え? あ? ん?」


 久しぶりに野宿をしたら、愛用の大剣が美少女になっていた。意味がわからないが、そういうことだった。


◇◆◇◆◇◆


 戦争は百年の長きに渡った。とはいえ、休戦や停戦を何度も挟んでいたため、実際に殺し合いが行われていたのはその半分程度の期間だ。

 最後の停戦が終わったのは今から十五年ほど前。その時は既に相手国を滅ぼそうという気概もなく、為政者のお遊びのような戦争になっていた。そもそもの開戦理由も今となっては、誰にも分からない。


 前線には報奨と略奪を目的とした傭兵が並び、貴族の名誉職に成り下がった騎士は遠方から見守る。長く続いたその歪な構造も、両国王の一声で終わりを告げた。

 その理由は公にされなかった。


 民衆が噂する中では、火薬を使った銃や砲が発展したからという説が有力だ。

 鎧を貫通する威力の流れ弾が届き、騎士に危険が及ぶ。騎士団に所属した貴族の次男坊が怪我でもしたら、大問題になる。

 今は高価で一般の傭兵が手にすることは滅多にない。しかし、このまま争いが続けばそうもいかなくなる。危機感を高めたそれぞれの王は、互いに手を取ることを選択した。そんな説だ。


 他にも噂は絶えない。

 王や貴族が飽きたのだとか、化け物が現れて戦争どころではなくなったとか、様々な説がまことしやかに語られる。しかし、本当の理由は、一般人や、ましては傭兵などには知らされることはなかった。

 

 理由はどうあれ、単なる外交手段であった戦争は簡単に終わった。それを生業としていた傭兵のことなど、王や貴族には関係のないことだから。


 行き場を失った傭兵たちは、大きくふたつの道を歩むことになる。

 野盗となり人の世を荒らす者。そして、その野党から人々を守ろうとする者。結局は戦うことしかできない者たちは、お互いに需要を与え続ける存在となっていた。


 リュールは後者であった。町や村を渡り歩き、用心棒として契約する。かつての同朋と戦うのは多少気が引けたが、略奪をする趣味はない。

 それなりに腕は立つため、小規模な盗賊団であれば単独で壊滅させる程度のことはできた。お互いに生きていくためであれば多少は手を抜くべきではあるが、あまり器用ではないリュールは常に全力を出していた。

 昨日も十人ほどの盗賊団を斬り殺し全滅させたため、用心棒の契約を切られてしまった。失ってしまった食い扶持を探すため、仕方なく放浪の旅に出ることとした。


 獣道に近い森の中、久しぶりに野宿をする。快適とは到底言い難いが、孤独でいられることは嫌いではない。

 悠々と目を覚まし、街や村を渡り歩く。そのはずだった。 


「で、誰?」

「リュール様の剣ですが」


 あまりにも美しい少女は、首を傾げた。

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