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エッセイ「少年ギャング団」

作者: 川越ふみ

小説ではなく、エッセイです。

 自分は今だから言えるが、子供の頃は相当のワルだった。ちっちゃな頃からワルガキで、15で不良と呼ばれてはいなかったが、ワルというワルはしつくしてきた。その中でも最大の悪事は、『ピンポンダッシュ』だ。『ピンポンダッシュ』。人の家のインターホンを押し、速攻で逃げるだけという『悪事』と書いて『イタズラ』。そしてその『ピンポンダッシュ』というナイスなネーミング。何がいいってその言葉の響きがいい。これを命名した人は、かなりのセンスの持ち主だと思われる。人捜しの番組に応募し、その人を見つけたい位である。

 小学2年生だった当時、クラスの仲の良い自分達のグループでは、その『ピンポンダッシュ』がインフルエンザ並に大流行していた。その理由は、何も用意する事なく、なおかつお金を1円も掛けずして簡単にスリルを味わえるゲームだったからだろう。『ゲーム』という表現はおかしいが、その頃は『ゲーム』という感覚でしかなかった。

 そのゲームは、友人同士でやるから意味があるもので、一人でやっても全く面白くないものだった。それは、むしろ逃げきった後の友人達との雑談がこのゲームのメインだったからだろう。

 このゲームの役割分担は、たった2通りしかない。インターホンを押す役と、それを少し離れた所で見守っている役の2つに1つだ。自分は、このゲームで最も重要なインターホンを押す役を自らかって出ていた。その当時、インターホンを押す奴が一番勇気があって、カッコイイと思っていたからだ。それに、何より目立ちたかったという事もある。

 その日もいつものように5人程の友人達と、その名の通り、ピンポンをしてはダッシュ、ピンポンをしてはダッシュを繰り返していた。既にインターホンを押す事に手馴れてきた自分は、次のターゲットの家でも余裕でインターホンに一差し指を当て、目で友人達とのタイミングを計った。「ピンポン♪」というインターホンの音がいわばスタートの合図で、その音が鳴るのを友人達はドキドキしながら待っていた。

 そして、さー、押すぞという時に、ありえない事が起きた。いきなり、玄関からその家のおばさんが出てきたのである。予期せぬ事態に、自分を含む友人達全員は余裕の表情から一変、目が点になった。おばさんは、そんな自分達を見るなり、「どうしたの?」と一言。一番近くに居る自分は、おばさんの表情と、その「どうしたの?」というイントネーションで、『只今、ピンポンダッシュ開催中の風景』という事を察知されていないと判断し、こう言った。

「...ボールが入っちゃって」

 今思うと、なんて頭の転換の早さだったのだろうか。この間、ほんの0、何秒だと思われる。そしてこの天才的アドリブ。家の目の前には公園があり、なんの違和感もない。しかし、そんな天才的アドリブは友人達の方が上だった。その状況を一早く察知した友人達は、「確かこっちの方だったよなー」と、『ボールがこっちに飛んできちゃったコント』を真顔で始めだした。その劇団を見て信じたというか洗脳されたおばさんは、ボールを一緒になって探し始めてくれた。そして友人達と少し探すフリをした後、またタイミングよく一人の友人が、「やっぱりこっちじゃなかったんだよ」と帰るキッカケを作るセリフ。決してこういう時の為のマニュアルがあった訳ではなく、全てはアドリブである。そして自分達は何事もなかったように、なんならボールをなくしてヘコんで帰るくらいの空気で帰って行き、おばさんの中では今でも自分達の事は、爽やかな、そして好感さえもてる少年野球団なのだろう。

 その日以来、『ピンポンダッシュ』をする事はなくなった。『ピンポンダッシュをやろう』と言い出す奴もいなかった。あの日、自分達の事を何も疑う事なく、あるはずもないボールを一生懸命探してくれているおばさんの背中を見て、何か思ったからであろう。そして、少し大人になった自分達がそこにはいた...。

 くだらないエッセイをお読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少年達のアドリブが凄く良いです。まるでその時の光景が目に浮かぶかのようでした。 ラストの締め方も、個人的に好きです。
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