第3話 ミュールハイム・アム・マイン帝国、国立魔法学校入学。
―第2話から1年後―
「第七皇子様、出発の準備は出来ましたか?」
執事や侍女は俺ではなく第七皇子にそう言った。
今日は僕と弟の第七皇子の国立魔法学校、正式名称ミュールハイム・アム・マイン帝国、国立魔法学校の入学式の日だ。
今俺は7歳、第七皇子は6歳。
「第六皇子様も準備は良いですか?」
第七皇子と話をした後に俺はそう言われた。
俺が6歳から7歳になる1年で帝国宮殿で働いている執事や侍女からの対応はとても変わってしまった。
まず何が変わったかと言うと、帝国宮殿内の人達は俺ではなく第七皇子優先に対応するようになった。
まぁ簡単に理由を言うと、俺に丁寧に対応しているよりも皇帝になるかもしれない、未来性のある第七皇子に丁寧に対応したほうが良いことに皆気付いたらしい。
帝国の皇子ということもあってメチャクチャ対応が酷いわけではないが…第七皇子優先になっている。
正直、前世の46年間執事やら侍女やらがついていたわけではなかったのでこっちのほうが俺としてもありがたい。
というのもあり、皇帝に俺はチクることもなく皆大体そんな感じの対応だな。
ちなみに、俺専属の侍女はおり、その人は俺優先なのだ。
1人くらいからなら丁寧に対応してくれると面倒くさくもなく嬉しいくらいだが…その人はまぁまぁなおばさん侍女なのでそんなに嬉しくもない。
「では、出発いたしましょうか。」
「はい。 お願いします。」
御者の人が一言俺らに言うと第七皇子はそう静かに丁寧に答えた。
まだ6歳だというのにとてもしっかりしている。
俺が6歳の時は「はい、わかりました!」等と元気いっぱいに返事をしていた。
前世で6歳の時の返事は生意気な感じだったと前世で成人の日に母から教えてもらった。
「はい、丁寧にありがとう御座います。」
第七皇子にそう言われた御者の人は凄い人しっかりとした子だなと少し驚いているようだった。
御者に荷物を詰め込んでもらっている間に俺と第七皇子は馬車の中に入った。
「では、出発です!」
ガタン!
御者がそう言い、音を出して馬車が走り出した。
「「第七皇子様、行ってらっしゃいませ〜。」」
馬車が走り出したと同時くらいに執事や侍女らがそう第七皇子に声をかけた。
やっぱり第七皇子だな〜と、わかっていたけど少し寂しいかもしれないな。
そう思いながらこの世界に生まれてから7年間育った宮殿を馬車の窓から見ていたときだった。
「第六皇子様〜頑張ってくださいませ〜。」
「第六皇子、頑張って下だせぇ!」
少し掠れた女性の声と男性の大きな声が聞こえた。
掠れた女性の声は俺の宮殿内専属のおばさん侍女だろう彼女は魔法学校には一緒に行かないことになっている。
女性の声は分かったが男性は誰の声だ?
気になり窓から周りを見回す。
俺に声をかけてきていたのは毎回剣術の練習時に剣術道場に居たおっさん無職剣士だった。
魔法学校に出発する今日まで全く何をしている人か分からい人だったな。
第七皇子ではなく俺に声をかけてきたこともかなりの謎だし、こいつは何なのだろう?
俺と第七皇子の他にこの馬車に乗っている人は馬車を引いている御者以外いない。
御者は馬車の外に居る。
それもあって馬車の中は気不味い空間になっていた。
そう、俺と第七皇子は兄と弟。
だがそんなに話す機会はなかった、さらに俺は天才な第七皇子を少し避けていたこともあり無言が続いている。
「お兄様は楽しみでございますか?」
馬車の中の静寂は第七皇子がそう言って壊した。
「…。」
気不味い空気を壊してくれたのは嬉しいが、正直どう答えるのが正解か分からないため、俺自身が答えられずまた馬車の中は静かな空間になってしまった。
何かを答えてあげたかったが、俺は今世前世合わせても兄弟等と関わったことはなかった。
そもそも俺には6人の兄と姉、弟が居るが、第七皇子以外顔すら知らない。
そんなレベルの関わり…いや、関わりがあるのかもわからないレベルだ。
「私は楽しみです!」
第七皇子とどう話していいか分からない俺とは反対に第七皇子はそうかなりガツガツ俺に話しかけてきた。
「色々な魔法を習いたいです。」
第七皇子は目を輝かせながらそう言う。
そりゃそうだろう。
なぜならこいつは魔法学校入学前に既に第四階の魔法が使えてしまうのだ。
「へ〜、そうか…頑張れよ!」
6歳の弟が頑張って話しかけてきていると思うと無視できず、どう答えるか考えた末俺は剣術道場にいたおっさん無職剣士が俺に話しかけてくる感じをイメージしながら答えた。
精神年齢はほぼ同じだしですんなりと第七皇子に答えられた。
第七皇子との会話でこんなに答えを考えている俺だが、別に人との会話が苦手なわけではない。
俺はシンプルに子供との会話が苦手なのだ。
そうなると魔法学校ではどうなのかという疑問が浮かんでくるが、今話している相手は苦手な子供でさらに歳下、避けてきた相手だ。
それを考えると初見で同年代のやつなら大丈夫だろう。
…であってほしい。
―宮殿を出てから5時間後―
コンコンコン。
そう馬車のドアが鳴った。
「両皇子様方、ミュールハイム・アム・マイン国立魔法学校にご到着です。」
ドアを開けて御者が俺らにそう言った。
どうやら俺は馬車で寝てしまっていたようだ。
ミュールハイム・アム・マイン国立魔法学校。
7歳から10歳の子供が学ぶ学校にしては巨大すぎる程の敷地面積を誇る国内最大級の小学校。
ここは国内最大級の小学校、国内最大級の魔法学校ではない。
なぜミュールハイム・アム・マイン国立魔法学校が大きいかと言うと、この魔法学校は皇帝からの支援があるためである。
魔法学校は他にもあるにはあるが、ここが一番有名で一番実力をつけることが出来る。
ちなみにこの魔法学校を卒業するとここでの成績によっては、キルケー魔法魔術学校という10歳から18歳までの魔法魔術学校へ行くことが出来る。
キルケー魔法魔術学校が国立とつかないのは、ミュールハイム・アム・マイン国立魔法学校は皇帝が運営の4割絡んでいるのに対し、キルケー魔法魔術学校は皇帝は全く関われないからである。
話を戻そう、俺らの馬車は今魔法学校の門の前に居る。
「こんにちは、第六皇子様、第七皇子様。」
門の前で御者が俺らの荷物を下ろすのを待っていると校舎の中から人が出て来てそう俺らに話しかけてきた。
「はい、こんにちは。」
「こんにちは、はじめまして。 ミュールハイム・アム・マイン帝国、第七皇子、ミハエル・マインです。」
俺はシンプルに答えた。
第七皇子は丁寧に長々と自己紹介をした。
今思ったんだが、俺ら皇族の自己紹介、早口言葉みたいだな。
「丁寧にありがとう御座います。 もうすぐ入学式が開始となります。 どうぞ、校舎にお入りくださいませ。 御者さんは荷物を皇子様方の寮へお届けください。 少しすると案内人が案内いたします。」
出て来た人はそう言うと俺らを校舎内に案内してさらに式の会場まで連れて行ってくれた。
御者は一生懸命下ろした荷物をまた馬車に入れていた。
それは…まぁ可哀想そうだった。