第1話 第七皇子、誕生。
「オギャー。 オギャー。」
赤子の泣き声が部屋に響きわたる。
ここは世界最強の国、ミュールハイム・アム・マイン帝国宮殿、王妃の間。
「王妃様、男の子です! 第七皇子です!」
第七皇子と呼ばれた男の子を抱きながら助産師がそう言った。
「そう…この子の名前はミハエル。 ミハエル・マイン。」
ガク。
王妃様と呼ばれた女性はそう一言だけ言って意識を失った。
「王妃様〜、王妃様〜!」
王妃の意識がなくなり1番初めにそう言い駆け寄ったのは王妃の侍女頭だ。
心配そうに王妃の体を振って無事かどうかを確認している。
アニメだと、ブンブンと効果音が出るくらいに。
今意識を失った王妃は雰囲気的にアニメなどではこのまま死んでしまうのだろうが、人間、そう簡単に死にはしない。
俺に言わせれば、子供を出産して体力を使ったのだ。
そっとしておいてやれ、ホントに死ぬぞ。
だな。
まぁかく言う俺は1歳の赤ん坊な訳なのだ、つまり精神とは違ってこの俺の声帯はまだ未成長。
あ〜、喋りてぇ〜ぜ。
「第六皇子、弟でちゅよ〜。」
俺の近くに居た侍女が俺のことを抱っこして第七皇子、つまり俺の弟を眺めさせてくる。
何が、でちゅよ〜、だ。 舐めてるのか。
「ほらクラウディア、弟だぞ〜!」
今度俺に話しかけてきたのはこの俺の父、ミュールハイム・アム・マイン帝国の皇帝エドガー・マイン、38歳。
さっきの侍女と違って舐めた口調では無いが…俺の精神は46歳のおっさん、つまりハッキリ言って、年下のこの男が俺にこう話しかけてきている時点でウザい。
なら、舐めてるのかと言っても「でちゅよ〜」と言ってきたお姉さんの方が何倍も良い。
「なぜこの子は笑わんのじゃ?」
皇帝がそう言った。
ミュールハイム・アム・マイン帝国皇帝…お前は38歳にしてじゃだと!? 気持ち悪い!
そう叫んでしまいたいものだ。
「皇帝陛下、クラウディア様はまだ1歳でございます。 私の甥も同い年ですが、同じような子ですよ。」
皇帝の質問には侍女が答えた。
マジか、お前の甥…おっさんだなww。
「いやぁ、この子は違うはずじゃ。 まさか…この世界に伝わるご先祖様の転生か? いや…それはいささか考えすぎじゃろう。」
何でそんな発想に繋がったのかは知らないが、皇帝陛下、父上の鋭い指摘だぜ。
もう少し赤ん坊らしくしとくんだった。
まぁ、コイツの言うことは半分正解だな。
俺は確かに転生した人間だが…先祖でも何でもなくただの地球に住んでいた46歳のおっさんだ。
何で転生出来たのかは知らねえ、小説なんかでよくあるある女神様が現れて転生させたわけでもねぇ、何かの拍子に死んで自分の書いていた小説の世界に入ったわけでもねぇ、そもそも多分死んだわけでもねえ。
気付いたら約1年前、クラウディア・マインとして生まれた。
「オギャー。 オギャー。」
弟がうるせえな、そろそろ泣き止めよ。
声には出せないが、心の声からの威圧で泣き止むはずだ。
そう思いながら弟を睨む。
「オギャー。 オギャー。」
…うるせえガキだぜ。
てか、俺が睨んでいる事にも気付かんし。
もういい。
前世ではブラック企業に勤めちゃってたわけでも、引きこもりだったわけでもなかったしで、そんなに嫌いでも無かった。
が、気付いたらここだった。
生まれたては楽だったしハッピー過ぎて頭もイカれてたぜ。
俺の母親は美人だから抱っこしてもらえるだけでも幸せを感じられた。
皇子様だから、メチャクチャ待遇もいいしな、女性のメイドなんかからもチヤホヤしてもらえたし。
だが…ある時、親同士が…まぁ、アレだ、イチャイチャしてベットに…てのを見ちゃったのさ。
子供はなんも覚えちゃいねえだろうからって、俺のベビーバスケットの近くでおっぱじめやがった。
もう一度言うが、見た目は赤ん坊と言っても精神はおっさん、すっげぇ複雑だった。
はたから見れば別に夫婦同時なんだから良いんだろうが…俺からすればあんなにも美しい人がこんなヤツにとか、冷静になると、親の行為をみちゃってるわけでと…。
それを目撃してからはなんだか、全ての事に冷静になれた。
「さぁ、クラウディア様、おねむのお時間ですよ〜。」
侍女が俺にそう言ってきた。
…俺はいい感じに語ってるんだけど。
無視だ無視!
これは親のアレを見てから気付いたが、この世界は魔法がある。
よくある転生小説の話だ、ここまでは良かった。
が、そういう話って大抵、
転生するなら第七皇子で無双劇だろ!!
第六皇子のイメージは全く浮かばん。
そこで終わったと思ったよな、ちょうどこの時期くらいに、この世界は魔法はあるけどすっげぇ文明的には遅れてるって気付いたのもあって絶望だ。
前世の俺、地球での最高の楽しみだった小説はクソみたいなのが少しはあるみたいだが、アニメはねぇし、もちろんゲームもねぇ。
「オギャー。 オギャー。」
流石にうるせぇ、第七皇子こと弟!
侍女も黙らせやがれ。
てか、王妃こと俺の母親はいつまで伸びてんだよ、サッサと起きてコイツを泣き止ませやがれ!
脱線しちまった、話を戻すぞ。
で、今、第七皇子が丁度生まれた。
ここから小説とかでは物語は始まるわけだ。
俺は末っ子という甘えるためだけの地位も失った。
第六皇子だから皇帝にはなれねぇ。
まぁ、今までの話を通して俺が何を言いたいかと言うと…これがどっかの作家達の1人が作りやがった世界なら言いたいが、
お前らは第七皇子、第七皇子の最強劇と第七皇子に焦点を当てやがるが、その第七皇子の影に隠れちまう第六皇子の俺はどうするんだ、クソ!!
て事だ。