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お前さえいなければ  作者: 冬馬亮
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 カーライルの数少ない友人のひとりに、伯爵令息のエディントンがいる。


 エディントンは伯爵家の四男。カーライルと違い、スペア扱いすらされていない。



 10歳の時に出席した他家のお茶会で、エディントンが偶然カーライルの隣席に座ったのが始まりだった。

 それ以来、機会を見つけてはカーライルの所に顔を出すようになった。別に性格が合うとかそういう理由ではないのだが。




「考えようによってはお前は恵まれてるんだよ、カーライル。しっかり教育してもらえてるんだからさ」



 エディントンは基本、放置されて育った。一応は家庭教師がひとり付けられているが、三男の兄、そして末の妹の担当でもあり、ろくに授業をしてもらえない。




 そんなエディントンに言わせれば、嫡男と変わらぬ教育を施してもらえるカーライルは、恵まれているのだとか。



「確かに、嫡男かそうでないかの差は、とんでもなく大きいよな。お前は特に同日に生まれたから余計、理不尽な気がするだろうよ。でも、そんな扱いは貴族なら当たり前、どこの家でもやってる事さ」



 世界は不公平と理不尽に満ちていて、平民と比べて恵まれているように見える貴族社会でも、それは変わらないとエディントンは言う。



 嫡男が一番大切で、スペアとなる次男はそこそこ必要、でも要らなくなったら捨てていい存在。その他大勢の息子や娘は、親の気持ち次第で価値が決まる。




「だから、自分で自分の価値を見つけるしかないんだよ。居場所もな。お前も兄貴の事なんかもう気にすんな。衣食住は保証されてんだし、お前の場合は教育も受けられる。家族だからとそれ以上を求めるな。

 それにな、少なくとも俺はお前の兄貴よりお前の方がずっと好きだぜ。人間臭くてさ」




 そう言って笑うエディントンは、家で学べない代わりに、カーライルが使った教本をよく借りに来ていた。ひとりそれを読んで学習し、分からない箇所はカーライルに質問するのだ。



 子どもの頃はそれなりに悩んだというエディントンは、10代に入ったところで気持ちをすっぱりと切り替えたらしい。悩む時間が勿体ないと、家族とは一定の距離を置き、自分磨きに勤しんでいる。



 そんなエディントンは、カーライルの事が心配だと言う。

 多くの教本を貸し、質問にも答えてやった恩を感じているのか、時々こんな風に会いに来ては、説教まがいの言葉をかけるのだ。




 ―――なあ、カーライル。前を向けよ。



 愛してくれない奴らのことなんか、気にするな。





 何度もかけられたエディントンの言葉。自分は十分前向きだと、気に留める事もなかった。



 それをもっと真剣に聞いていれば、何か変わったのだろうか。



 公爵位を、シンシアを、自分にも価値があると認めてもらいたい欲求を諦められたのだろうか。



 もしそう出来ていたら。



 あのやけに前向きで気のいい男は、今もカーライルの友でいてくれたのだろうか。







 ―――十年後。



 そんな風に思い悩む日が来るなんて、この時のカーライルは想像もしていなかった。



 


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