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お前さえいなければ  作者: 冬馬亮
10/12

あの日、そして今日



 自分が何をしたのか、してしまったのか、瞬時に理解したカーライルのその後の行動は早かった。



 エッカルトの上着を外し、先ほど自分が落ちかけた崖のような陥没した地面に死体を転がして落とす。血の付いた石もついでに崖下に投げ、その後、地面の血痕を隠した。



 出来るだけ発見を遅らせたかった。その為にも、この後行われるであろう捜索を撹乱する為、カーライルはエッカルトから脱がせておいた上着を―――エッカルトとカーライルを見分ける為の色違いの上着を羽織る。結んだ長い髪は上着の内側に隠し、お腹まわりに自分の色の上着を畳んで入れた。少々不恰好だが、人に会う訳ではない。遠目に姿を目撃させるだけだから問題なしとした。



 この山の地形を思い出しながら、速足で進む。シンシアたちがいるであろう場所を避け、なるべく死体を遺棄した場所から遠く、水辺に近い所。



 帰宅の為の集合時間が迫っていた。あまり猶予がない。数名の護衛たちの姿を遠目に確認した後、カーライルはエッカルトの色の上着を川べり近くの木に引っかけるようにして脱ぎ捨てた。



 そこから川まで真っすぐ進み、靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾をまくり上げてざぶざぶと川の中を歩いた。



 カーライルの足首程度の深さしかない水流だが、足跡を消すのには十分だ。



 だいぶ進んだ先で水から上がり、自分の上着で足を拭き、靴下と靴を履いた。濡れた上着は水を吸って色の変わった箇所を内側にして畳んで手に持ち、急いで待ち合わせ場所へと向かう。



 両親も、シンシアたちもまだだった。


 シンシアの兄の一人だけは既に来ていて、軽い会釈だけを互いに交わす。


 やがてペールヴェーナ公爵夫妻、それからエストリーデ公爵夫妻が連れ立って現れ、シンシアのもう一人の兄が現れ―――





 未だ戻って来ていないのは、シンシアとエッカルトだけ。だが、集合場所で待つ彼らは皆、婚姻式間近の二人が行動を共にしていると信じて疑わない。けれど、やっと現れたシンシアの側にいるのは護衛だけ。



 それでも、エッカルトだけがずっと待ち合わせ場所に現れなくても、まだ誰もさして気にしてはいなかった。




 ―――護衛の一人がエッカルトの上着を見つけてから、大騒ぎになったんだっけ。




 カーライルは、執務室にある窓から外を眺めながら、そんな事を考えていた。

 抜けるような青い空。窓から見える木々の葉が、そよそよと風で揺れている。とても、とても爽やかな春の日で。



 そういえばあの日も、確かこんな―――






「あの日も、こんな天気だったね」


「・・・え?」


「雲ひとつない青空で、風も優しく爽やかで、絶好のピクニック日和だった」


「カー・・・ル・・・?」


「楽しい思い出作りの筈が、まさか殴り殺されるなんて、思ってもいなかったよ。カーライル、お前が石を振り上げたあの瞬間まで」


「・・・っ!」



 可愛らしい声が、信じられないような台詞を吐いた。




「カール、お前・・・?」



 カーライルは、恐れと驚愕の入り混じった目で、じっと息子の顔を見つめた。


 自分によく似た青緑色の髪、自分と同じ黄色の瞳。顔つきも体つきも、幼い頃の自分を彷彿とさせる容姿は―――



 ―――俺に、似てるんじゃなくて。




「エッ・・・カル、ト・・・?」


「そうだよ、カーライル。僕だ」



 カールハインツは、ナプキンで手と口元を拭うと顔を上げ、真っ直ぐな視線をカーライルに向けた。












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