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花風船  作者: 奇群妖
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二章

〈愛の成る木をご購入いただきありがとうございます。当サイトでは愛の成る木の育て方をお客様にご案内いたします。〉


 サイトはそんな一文で始まった。とりあえず安全そうなのが分かったので社内携帯から自分の携帯に切り替え再びアクセスする。

 書かれていたのは植木鉢をどうすれば良いのか、とか色々。

 

〈愛の成る木は既に種が植えられてある植木鉢です。見た目にはただの植木鉢ですが気にすることはありません。ご購入いただいてから数日から数週間で発芽すると思われます〉


「数日から数週間……」


 種が埋まっていると言うことだったけれど、どんな植物なのだろうか。


〈この木を育てるのに何ら必要なことはありません。一日に二回水を上げ、適度に日光に当てればそれで十分です。〉


 なるほど。せっかく買ったんだし育ててみるつもりではあるけれど、このサイトに従ってやれば良いのだろうか?


〈また、このサイトは一気に全て読み終えないことをお薦めします。どのような植物が生えてくるのか、是非ご自身の目でお確かめください〉


 うーん、もっともではある、かな?

 せっかく買ったのだし今日は珍しくやることも無い休日だ。

 この鉢植えを見てみるというのも暇つぶしにはいいかもしれない。少なくとも朝からずっと布団にくるまったままでいるよりはよほど有益だろう。


〈①暖かく日の当たる場所に鉢を置いてください〉


「えぇとお日様お日様……っと」


 鉢植えの下に手をやって土がこぼれないようにしたうえで持ち上げる。

 暖かいところ、日が当たるところといったらやはりベランダだろうか。

 

 私が住んでいるのはちょっとしたマンションだ。会社にわざわざ通勤するのが面倒くさくなって、会社の近くにあるこのマンションに去年引っ越してきた。

 会社に近い、と言うだけで駅近では無いしスーパーへ行くにもちょっと歩かなければいけないけれど、どうせ通勤帰りとかに買ってくるのでそこはそんなに困っていない。


 この引っ越しによって少しお金が浮き、私は日当たりの良い部屋に住むことができたのだった。

 ちなみに内装もそこそこお金をかけており、社会人一年目とかに住んでいたボロアパートよりもよっぽど安心できる住宅住まいなのである。

 心配事と言えば、家を持った女は結婚できなくなるとかそういう話を同僚に言われたことがあるぐらいだけれど。

 大丈夫、私はまだペットを飼い始めるとかそういう独身女のタブーには手を出していないから大丈夫なはず……。


「おぉお……暖かい……」 

 

 時刻は十時半。この時間になるともうすでに外は大分暖かくなってきていた。

 四月も下旬になり、最近はどんどん暖かくなってきている気がする。

 通勤の時に見かける桜もこのあいだ満開だったし、良い感じだ。


「地球温暖化かねぇ」


 とまぁ適当なことを口にしつつ私はベランダに植木鉢を運び出す。

 そんなに大きい植木鉢という訳でもないのだけど、よっこらせ、とおばあちゃんみたいな声を出した。

 社会人になって六年もすると体のあちこちにガタが出てくる。ガタガタのガタよもう。若い子がほんと羨ましいわおばちゃん嫌になっちゃう。

 道路を走る高校生らしき男の子達を見つつそんなことを思った。運動、大人になってから急にできなくなったなぁ。このままだと私孤独死かなぁ。


「あー、結婚したい!」


 結婚じゃなくてもいい。ただ、なんかせめてこう、告白されたりとか。

 会社に入ってしまうと関わる人が一気に固定されてくるから、大学の時とかみたいにいろんな人と知り合えなくなってしまうのだ。

 恋愛には、それが致命的。

 学生の時は数撃てば当たるというか、何と言うか。沢山の人と関われれば出会いの確立だって上がるだろう。

 そもそも知り合う機会が無ければ恋愛なんてものは難しくなってくるのだ。


「もー、頼むよー。愛の成る木なんだったら愛とか恋とかもたらしてよー」


 そんなことができるはずも無いのは分かってはいる。けど頼りたくもなるというものだ。独身なんてこんなものだろう。

 雲がちらほらと浮かぶ青空に、スズメが群を成して飛んでいった。


〈②水やりをしてください。最初はたっぷりと、鉢の下から水が溢れ出すまで水をやってください〉


「はいはい、っと……」


 台所に行って計量器に水を注ぐ。とりあえずパッと目についた中で一番たくさん水が入りそうなのがこれだったので、まぁ良いだろう。

 250mlの線を越えて、気を付けないと溢れそうなぐらいまで注がれたところで私は水を止めた。


「……注ぎすぎたかな……?」


 水が私が歩いただけでこぼれそうなぐらい揺れる。私は仕方なく抜き足差し足でベランダに向かうのだった。


***


「ふへぇー、疲れたぁ……」


 水やりを終えて余った水を一気に飲み干してソファに座り込む。

 あの後およそ三往復ぐらいした私はすっかりへたり込んでいた。


「頭痛いって……ほんとにもう……」


 常備していた二日酔いの薬を飲んでおく。効き目が出るのは三十分後だ。

 ベランダの方を見ると、植木鉢から溢れ出してベランダの床に広がった水溜りが日光を反射してキラキラ光っていた。

 植木鉢の土も一身に日光を浴びている。

 あれ、そういえば植物の発芽に日光とか関係あるんだっけ?前に倣った気もするけど、思い出せない。


「愛とか言ってもねぇ……」


 そういえば『金の生る木』なんてものも昔あった覚えがある。今もどこかで売っているのだろうか。

 金の生る木はたしか、若葉にお金を挟んでおくことでお金の型がついた葉っぱが作れるとかなんとかそう言うの、だっけ?

 じゃあ愛の成る木は何がどうなって愛の成る木になってるのか。

 ……愛を挟む?って言っても訳分からないし。


「考えても仕方ないかぁ……」


 とりあえずあのサイトに従って、愛の成る木とやらを育ててみようと思う。水をやるだけならそんなに時間もかからないし、どんな物が生えてくるのか純粋に気になるからだ。

 でも、とりあえず今日やることは特にない。

 せっかくの休日だ、ゲームか何かを……


「アイタタタ……」

 

 頭が痛いから、ゲームは無理かもしれないな。

 そんなことを思って私は再び布団へと向かうのだった。

ヒント2:『愛』と言えばハートです。

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