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花風船  作者: 奇群妖
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十五章

 家に帰ると『愛の成る木』はすっかり枯れていた。

 いや、元々しばらく前から枯れていたのだ。

 シルバーウィーク中にほとんどの実が色づいてきて、その辺で気づいた。これ支柱は脇本さんのだ。返さないと。

 だから、枯れてきてたしちょうどいいやと思って全部の実を収穫して、支柱に絡まったつたを一本一本解いて、支柱を引っこ抜いた。

 支えを無くしたつたは幽霊みたいに地面に垂れ下がっている。


 最後に少しだけ見ようと思って、サイトを開いた。

〈収穫を終えたら『愛の成る木』は終了です。〉と書かれた一文の下に少しだけ、小さく書かれている文章があった。

 人差し指を使ってスクロールしてみる。


 

〈全て終わったのなら植木鉢をひっくり返してみてください。一番底の部分に、贈り物があります。我々から貴方に、愛をこめて。〉


 新聞紙を引っ張り出してきてベランダに広げる。流石に土をぶちまけるのにはベランダは適していない。

 いざという時すぐに捨てられるように新聞紙を使うのがベストだろう。

 ま、今日の朝刊だけど大丈夫か。


 バサバサ、と土が音を立ててカラカラに乾いた新聞紙を湿らせる。

 所々に見える白い紐みたいなものは根っこの名残だろう。


 そんな土の中に、ぴょこんと飛びだしている透明の物があった。

 

「……ビニール、かなこれ?」


 引っ張り出して確かめてみると、確かにビニール袋だ。

 中に何か、入っている。

 なんだろう、単語帳みたいな……


 違う。メッセージカードだこれ。すぐにビニールから取り出して広げる。

 別に大したことが書いてある訳でもない。どこにでもあるような手書きの文字で、こう書いてあっただけの話だ。


〈愛は枯れてしまった。けれど、確かに愛は根を張った。〉


 それを見て去来する感情は別に大したものじゃない。

 呆気に取られる、とでも言えばいいのだろうか。

 私的にはここでこの『愛の成る木』の正体を教えてもらえると思っていたのに、書かれていたのはポエムだった。


「……あははっ」


 思わず笑ってしまう。最後までこの植物の名前は分からないままだった。

 多分調べれば出てくるんだろうけど、調べる気も無い。私にとってこれは『愛の成る木』だし、それ以外の何の植物でもないのだ。


「はぁ~。振られちゃったなぁ」


 多分脇本さんは振ったとも思ってないんだろうなぁ。


 今日は飲みに行こうか。幸い会社はかなり早く終わったおかげでまだ四時過ぎだ。今から行けばどこの居酒屋でも入れる。

 目一杯飲んで、それでまた新しい恋がやってくるのを待とう。

 確かに今回は失敗だった。というか既婚者を好きになるなんて、どうかしてるぞ私。

 でも大丈夫。何度でもやり直せばいい。

 だって確かに、愛はこの心に根を張ったのだから。


***


「あぁああ頭痛い……」


 その晩。私は一人で家までの道筋を辿っていた。

 案の定また飲みすぎた。飲みすぎて爆睡していたのを叩き起こされたばかりなのである。

 なぜ私は学ばないのか。これ人類の七不思議で良いんじゃない?


「……あ」


 また見かけた。例の花屋だ。

 店員が居ない無人の花屋。

 何も植わっていない植木鉢が以前見たとおりに並んでいる。

 街頭に、もうすっかり秋になったというのに飛び回る蛾がまとわりついて道に影を落としていた。


 でも、もし一つ違うところがあるとしたら。


「--ねぇ君、君もこの花屋さんによく来るの?」


 丁度お店をのぞき込んでいた、大学生ぐらいと思しき男の子に、私は声を掛けた。

それでは答え合わせをば。


皆さん、『愛の成る木』のモデルが何かお分かりになりましたでしょうか。




答えは『フウセンカズラ』です。


名前まで分かった人も、見た目だけ思い浮かんだ人も、何も分からなかった人も。この小説を楽しんでいただけたなら幸いです。


小日向ちゃんと同じように育てればしっかり育てられると思うので、試したい人は是非試してみてください。楽しいですよ。


ちなみに植え初めの時期は4月で、9月に収穫です。


夜恐でした。それではまた別の作品で!

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