プロローグ 第0話 初期設定(チュートリアル戦闘)
クロデ=カナは絶賛、大パニック中であった。
今からチュートリアル戦闘が始まると言うので相手に雑魚モンスターでも召喚されると思っていたら、出てきたのはストーリー終盤に出てくる様なドラゴンだった。
それも武器は無し、素手である。
な……何を言っているかわから(以下略)。
「えっ、本当にこれ、どうすれば良いの?」
召喚されたドラゴンは翼ではばたき、大空に居ながらも更に上へと舞い上がる。
「こんなの、さっき見たどの武器でも戦えると思えないんだけれど……」
遙か空を舞うドラゴンは、どう考えても剣や槍で届く距離じゃない。
こんなのを相手にどうすれば良いのかと困惑していると、もう一度”ピロンッ♪”っと音がし、アナウンスが響き渡った。
『お試しの為、一時的に選んだ武器種に応じ、ステータスにLv.100時点のBPをお任せに振り分けします。尚、”クロデ=カナ”さんは素手をお選びの為、通常通り2倍のBPを振り分けます』
「え、え、え!?」
突然の情報の洪水に流され、カナの困惑は更に深まる。
アナウンスが一通り言い終わると、カナは自身の体が異常に軽くなった事に気付いた。
「わ、凄い、体が軽くなった」
軽く飛び跳ねているだけなのだが、既に通常の数倍のジャンプ力となっている。
「……よくわかんないけれど、あそこまで自力で跳んで戦えって事ね」
遙か宙を飛ぶドラゴンを見上げる。
今のジャンプ力ならしっかりと足に力を込めれば楽々、遙か空を飛んでいるドラゴンの元まで届きそうであった。
「よし……」
カナは覚悟を決めて足に力を込めた。
そして――
タンッと、飛び上がり、ドラゴンの直前まで近づくと拳を前に突き出す。
「はっ!」
メキッと拳が深くドラゴンの体に沈むが、それだけではドラゴンは倒れず、負けじと爪で反撃をしてきた。
カナは持ち前の反射力で襲いかかるドラゴンの腕の側面を掴み、体をバネの様にしならせ、そして捻りを加えながらドラゴンの頭を横向きに蹴り抜いた。
「うわっ凄い、思った通りに体が動かせるっ!」
当然、今カナが行った動きはとても人間技では無い、ゲームだからこそできる動きだろう。
「何も持つ必要が無いから手はかなり自由に使えるし、案外素手……良いかもっ」
そう言って彼女はドラゴンの巨体を利用し、体のあちこちを飛び跳ね駆け回りながら、拳や脚を用いた打撃を浴びせる。
時間にして数秒、チュートリアル様に調整されたお互いのステータスでは長期戦になるわけも無く、ドラゴンのHPはすぐに切れるのだった。
「おっとっと……」
力尽きたドラゴンは宙の床まで墜落し、カナも近くの床に危なげながら着地する。
パリンッと粒子になったドラゴンはそのまま霧散した。
「チュートリアルとはいえ、素手でドラゴン倒せちゃった……」
中々なパワーワードにカナは感慨を覚える。
「チュートリアルお疲れ様です。今体験して貰ったのは実際のゲーム内でもLv.100時点では可能と予測されるステータスとなります」
アナウンスが流れた所で武器種の説明が書かれたパネルが現れる。
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素手
分類:素手
効果:なし
『素手』
対応ステータス:STR、AGI、DEX
[S]初期設定ボーナス
アクセサリー効果1.5倍
レベルアップボーナス2倍※武器切り替え時、追加分消失
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「え、やっぱり強くない?」
恐らく、上側は武器自体の説明、下側が武器種の説明という構図だろう。
そして『素手』という武器種……中々おかしな日本語だが、それとしてのオプション効果は凄そうに見える。
このような表示は先程、他の各武器種の説明を見た時には特に無かったはずなのだ。
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ブロンズソード
分類:片手剣
効果:STR+4、DEX+2
『片手剣』
対応ステータス:STR、AGI、DEX
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と、比較してみるとわかるように、このような簡素な表示だけだったのである。
「もしかして、素手って強めな設定になっているのかな……」
素手は文字通り武器を何も装備していない状態だ。
それ故に通常、ほとんどのゲームでは一切のステータス補正がかからない最弱の状態なのだが希に例外がある。
実際カナが今までやっていたゲームにも、素手が弱くはないと言える調整になっていたゲームは割とあったのだ。
だから彼女は、もしかしたらこのゲームでも同じかもしれないと考えた。
『ここで決められるのは初期装備のみとなります。ゲーム内で後から別の武器種に変更することも可能です。こちらの初期装備で始められますか?』
”はい”か”いいえ”の選択肢が目の前に表示される。
「別に後から決めることもできるのなら……」
そう言って、彼女は”はい”を押す。
他の初期武器を試してからと言う選択肢もあったはずだが、興奮と段々楽しくなってきたカナにそこまでの考えは回らず、早くチュートリアルの次へと進みたいという気持ちが先走っていた。
「では、初期装備を素手で決定致します」
こうして私の初期装備は決まったのだった。
……この時の私は、まさかこの選択がこのゲームを素手で戦い続ける運命になるなんてことも、この選択のデメリットも、全部まだ……何も知らない。