第2話 初戦闘(3) ――レベル上げ
「おめでとー、カナちゃん」
初めての戦闘に多少のサポートがあったとはいえ、見事勝利したカナにルユが寄ってくる。
「ありがとう、ルユちゃん」
「いやー、凄いね。まさか勝てるとは思っていなかったよ」
「え、どういうこと? 此処って最初の狩り場みたいなものじゃないの?」
実際に周りに出現しているモンスターは兎やスライムである。
最初の街から一番近いフィールドが最弱のモンスターである事は、もはやゲームにおいて鉄板のお馴染みでもあるはずだ。
ならば、幾らLv.1でも余裕で勝てる様になっているのが普通のはずなのだ。
「その認識は間違っていないんだけどねー。BPのチュートリアルも兼ねているんだよ」
その後のルユの話をまとめるとこうだ。
・通常のプレイヤーはゲームを始めたばかりでも30~50のBPを得られる。
・BPはステータスに1=1で割り振る事ができる。
・始めたばかりのプレイヤーはBPが無振り状態でステータスALL0である。
・イーズ平原のモンスター達はBPを無振りで強敵レベルの強さ、20P程適性に割り振れば雑魚になる絶妙な調整がされている。
だそうだ。
「それじゃあ、初期BPが0の素手は……」
「絶対強敵になるって事だね♪」
「早く言って欲しかったです……」
カナはその場にへたり込む。
「ごめんね。色々と対策は考えてきたんだけど、順番に試そうと思っていたから」
「だから特に何の対策も使わずに倒せた私を凄いって言った訳ですか」
「そういうこと。カナちゃんって現実では何か格闘技やっていたの?」
ステータスALL0は現実と同じ身体能力である。
それは普通であれば、現実離れした動きを繰り出すモンスター達を相手に為す術も無くなってしまうだけなのだが、現実で何か格闘技などをやっていればゲーム内でも全く同じ様に動く事が可能だ。
同じレベル1でも格闘技など身につけていない一般のプレイヤーに比べれば、その戦闘能力はPSとして大分違った物になるだろう。
その可能性をルユはカナに聞いたのだが……。
「いえ、特に何も。昔から運動は得意な方ではありましたが……」
「んー、それじゃあ、やっぱり……ペンクロの副作用のおかげもあるのかな」
「どういうことですか?」
「ペンクロはある意味、感覚の拡張としても機能するって事」
「ん、うーん……あ、なるほど。たしかにいつもより感覚が鋭かったので動きやすかったです」
ルユとカナの解釈を纏めるとこうなる。
要するに今のカナは普通の人間の、2倍の五感の鋭さを持って戦闘をしていた訳だ。
2倍近い反射神経を発揮していると言っても良い。
そしてその感覚の鋭さが、カナの天性で直感的な戦闘センスを強化しているという話なのだ。
先程の戦いから見るに、直感的な戦い方をするカナには相性が良かったのかも知れないとルユは考えたのだった。
「それなら、ペンクロは変えないで戦った方が良いかもしれない」
「へ?」
ルユの唐突な提案にカナは間の抜けた声を出す。
「カナちゃん運動神経は別に悪くも無いみたいだし、危機察知能力的な使い方もできて意外と相性良いかもしれないよ」
「な、なるほど?」
カナにもルユの言っていることはわかるのだが、それはつまり避けるのを前提に戦わなければいけないことも理解する。
「避けれ……ますかね?」
先程の兎のタックルも避けれなかったカナには不安がとても大きかった。
「うーん、今からペンクロを下げていくのも結構時間がかかるし、それならいっそ回避することに慣れるよう集中した方が良いと思う。大丈夫、さっきの動きを見る限り不可能そうには見えなかったし、きっとできるよ!」
「そ、それじゃあ……その方向で頑張ってみます」
どうしてこうなったと思わなくも無いのだが、こうしてカナの戦闘スタイルは被弾0を目指すという初心者にあるまじき戦い方に決まってしまうのだった。
■
「それじゃあ、これ」
カナは、またいつから持っていたのだろう大きめな袋をルユから手渡された。
「これは?」
「順番に試そうと思っていた秘策の数々だよ。中に結構色んなアイテムが入ってるから貰っといて」
「え、そんな、貰えませんよ!」
「私には使えないアイテムばかりだから貰っといて。それにそんな高価なアイテムは入ってないしね」
「でも……」
「速く強くなって貰って一緒に戦いたいしさ。お願い」
「う……」
ルユは手を合わせて頼み込んできている。
カナもここまでされると受け取るしかない。
「わかりました。速く強くなってお返しできるように頑張ります」
(今度姫奈の進捗状況も聞いておかないとなー)
流石に誘ってくれた友人をそっちのけでやるわけにもいかない為、進捗を聞いておく事を決意する。
「うん、ありがとう。……それじゃあアイテムの説明だね」
カナは袋を開けて中身を見た。
「まずは各種回復ポーション、緑がHP、青がMP、黄色がSPだね。全部最低値の奴だし、状態異常回復系はないけれどしばらくはこれで良いと思う」
その説明にカナは視界の端にあるバーを見る。
しかし、そこには緑色のHPバーしか表示されていない。
「えっと、MPとSPはどうやって確認するんですか?」
「MPは魔法を覚えたらHPバーの下に表示されるはずだよ。魔法に関しての説明はまた今度になっちゃうけどね。SPバーについては基本表示されない。恐らく隠しステータスなんだよね。ただ、そのポーションが恐らくSPを回復させるものの可能性が高いって言われてるから、そういう裏ステータスがあるのは確定的かな」
「なるほど……」
「それで次は石つぶて様の石、投げて当てると1~3ダメージの固定ダメージが入るよ。序盤は結構有用なんだ。まとめて投げても、それぞれにダメージ判定があるし」
袋の中には大量の石ころが入っていた。
「これ、どうやって持ち運ぶんですか……」
「あ、まだストレージは確認していなかったんだね。メニューを開いて、2番目辺りのアイコンをタップしてみて」
言われた通りに操作すると、幾つかの□が並んだパネルが現れる。
因みにそのアイコンはバッグの様な物が描かれていた。
「それでパネルの前に入れたいアイテムをかざすと、勝手に仕分けして入れてくれるよ」
「わわっ!?」
袋ごとパネルの前にかざすと、袋は粒子上となってパネルに吸い込まれる。
パネルにはそれぞれのアイテムがアイコンになって収納されているのだった。
「ほえ~……」
「ふふ、容量はほぼ無限だから便利だよ」
思わず間抜けな声が出てしまったカナは慌てて口を押さえるが、その様子を見ていたルユは微笑んでいる。
先程からルユがいつの間にか取り出していたアイテム達も恐らくこのシステムを利用したのだろう。
「それじゃあ最後、クロスボウね。今しまったアイテムの中に入っているから、アイコンをタップした後一覧に出てくる取り出すボタンをタップしてみて」
操作を完了するとカナの手元にはクロスボウが現れる。
「あれ、でも私武器は装備できないはずじゃ」
カナは武器を装備してしまうと数少ない初期ボーナスが剥奪されてしまう。
当然ルユもその事を知っているはずなのだが……。
「武器にはメイン武器とサブ武器って言うのが存在するんだ。そしてクロスボウはサブ武器、サブ武器にはスキルとかが存在しない代わりにメイン武器と併用できる特性があるんだ。それなら装備しても素手の初期ボーナスは消えないよ」
「そうなんだ……」
その話を聞き、カナはクロスボウに興味が出てくる。
「装備の仕方はメニューの時みたいに装備を軽くタップして」
クロスボウをタップすると装備しますか?と書かれたパネルが出てきた。
カナはYesのボタンをタップするとクロスボウは1度消え、一瞬の間の後カナの左腕に装着された状態で再び現れた。
「装備した状態だとメニューの三つ目のアイコンから別枠で保管する事もできるからね。……これで私のレクチャーは一旦おしまい。この後はどうする? まだまだ付き合えるけど」
「色々とありがとう! 私は、もう少しモンスターと戦ってみたいかな」
「そっか、それじゃあ、私はクロスボウの使い方を教えながらまた見守っているよ」
「うん、お願いします!」
それから数時間、私は兎とスライムを倒し続けるのだった。




