11 いざレベル上げ!
本日四回目の更新です!
魔神王城の目の前には広大な森が広がっている。
そこに潜むモンスター達のレベルは平均90という、現在実装されている中で間違いなく最高難度のマップである。
プレイヤーがここで安定した狩りを行うのであれば、かなり条件を整える必要がある。
高レベルのプレイヤーが良い装備に身を固め、バランスの良いパーティーを組む、等だ。
そんな場所の入り口に一人のプレイヤーがいた。
闇色の紫を基調としたゴシック調のドレスに身を包んだ、十六歳程の少女である。
彼女のキャラクターネームはマーサ。
ゲーム全般に疎い上に、始めたばかりでレベルは1しかない。
そんな彼女は、奇妙な四人の男女と共にいた。
眼鏡を掛けたクール執事風の男装美女、身長二メートルは越している筋肉ダルマ、騎士姿の目つきのきつい美女、全身包帯グルグル巻きで血走った右目しか露出していない男(?)。
四人はマーサを取り囲むようにして歩いていた。
先頭のイケメンが止まったところで、道に沿って横並びになる。
右手に森、正面にマーサを見据える形だ。
「それではいよいよ森に入りますが、もう一度念を押しておきますね」
「はい、お願いします!」
「ここ≪嘆きの森≫の中はとても危険です。決して我々の側から離れないようにしてください」
「はい!」
「それと、貴女様は魔神姫であり、我らが仕える存在です。我らにそう畏まった態度は取らないでください」
「あ、すみま、じゃなかった、ごめんなさいメルドさん」
「はぁ、まあいいです。くれぐれも気を付けてくださいね」
(しまった、また言い方がきつく……。丁重な態度で接しなければいけないというのに、普段目上の人なんてアルディ様しかいないから上手く出来ない……! でも、落ち込んでる姿も可愛いわ!)
男装美女ことメルドはため息を吐きながら、クイッと眼鏡を直した。
態度に若干棘があるが、内心はマーサをとても気に入っている。
主である魔神王があれほどまでに幸せそうにしているのを、結婚式で初めて見たからだ。
「ははは、気にしなくていいよマーサ様。ツンツンした態度に見えるけど、内心ではマーサ様のこと大好きだと思うから」
「あ、うん、ありがとうゴッスルさん」
「いいいよいいよー。メルドももっと気楽でいいのに」
「黙りなさいゴッスル。貴方は気楽すぎます。もっとその筋肉みたいに態度も固くしてはどうですか?」
「あっははー。固いのは筋肉だけで十分だよー」
ゴッスルは暗黒四魔神の一人、≪筋肉の魔神≫だ。
それは見事な筋肉でスキンヘッドな上に顔も怖いのだが、とても気さくでノリが軽い。
その見た目と中身のギャップで、魔神王の配下一同からはとても恐れられている。
「なあ、その辺にしておかないか?」
二人のやりとりに痺れを切らし、騎士風の美女が一歩踏み出した。
元々きつい目つきが更に吊り上っている。
「私は早く斬りたくて敵わんのだ。斬らせろ斬らせろ斬らせろ斬らせろ斬らせろ斬らせろ」
「うわ、また始まったよミッシュの発作。これなんとかなんないの?」
「ミッシュ、もうすぐですから少し我慢しなさい」
「こんな少しの時間も我慢出来ないなんて、ミッシュは鍛えた筋肉が全部脳味噌にいってるんじゃないの? 少しは知能も鍛えないとダメだよ」
「その見た目で言うと皮肉にしか聞こえませんが、珍しく正論ですね。この任務が終わったら勉強しましょう」
「ええええええ、嫌だ、私はただひたすら斬りたいんだ! 敵でも肉でも野菜でもいいからきーらーせーろおおおおおおおお!」
暗黒四魔神の内三人はわちゃわちゃしている。
もう一人は小声でマーサに何事か呟き、マーサは頷きで返した。
そして、一歩前へ出た。
「あの、森へ行かないの?」
言い合いをしていた三人は、ピタッと動きを止めた。
そして完全に統率された動きでその場に跪いた。
「申し訳ありません、直ちに!」
「ごめんねマーサ様。僕頑張るから!」
「ありがとうございます! 斬って斬って斬りまくりますので!」
「う、うん」
(この森で何するのか結局聞いてないんだけど、私は何したらいいんだろう?)
三人の動きに驚きつつも、疑問が一つ湧いた。
しかしそれも、すぐに解消される。
「メルド様、索敵完了しております!」
「ご苦労。近くの敵は?」
「二十メートル先に一、その先に一、更に後方に一、足止めしています」
「ではこのまま向かいます。ゴッスル、念の為警戒を怠らないようにしてください」
「はいはい、分かってるって。あ、マーサ様僕達の中心からずれないようにね」
「あ、うん」
「マーサ様! 何が来てもすぐに斬りますから安心してくださいね! 斬りますから!」
「えっと、ありがとう?」
「……」
「あの、メルド、さん? メルチさんがずっと回復魔法みたいなのかけてくれてるのは」
「私が命じました。片時も目を離さず、常に回復しておくようにと」
「あ、なるほど」
「……」
森の中には魔神王が誇る精鋭三百人が投入されていた。
指揮するのは暗黒四魔神が一人、≪軍勢の魔神≫メルド。
≪嘆きの森≫の中に配置された軍勢により、モンスターの位置は丸裸。
それだけでなく、狩りやすくなるよう位置や距離まで完璧にコントロールされていた。
「あの、メルドさん?」
「どうしましたかマーサ様」
「皆、ちょっと近いというか……」
そして、マーサを囲むのは魔神王配下の最高幹部、暗黒四魔神。
前方後方そして左右。
マーサから一メートルも空けずに立っている上に、それぞれが魔神態と呼ばれる真の姿に戻っているせいで圧迫感がすごい。
更には精鋭二十人が随伴していることから、警護の本気度が覗える。
「先程も言いましたがこの森は危険な場所です。マーサ様に万が一が無いよう配慮するのは当然のことです」
「そうなの?」
「ええ。精鋭部隊員ですら、一人で森に入ればただでは済みません。ですが安心してください。我ら暗黒四天王であれば、例え一人でもこの森の魔獣如きに遅れは取りません」
「そうなんだー。それで、この森には何をしに来たんです……来たの?」
「マーサ様のレベル上げです」
「レベル上げ」
(レベル上げってこんなに大勢で一人を守りながらするものだったっけ……?)
あまり詳しくない知識ですら疑問に思うマーサであったが、そういうものかと納得した。
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