花火
もう、十年になる。
私の通っていた高校で、殺人事件が起きた。高校生活にも多少慣れてきた、七月の上旬。学祭が行われた、蒸し暑い夜。
校庭で後夜祭の花火に皆が酔いしれている最中に、校内にいた生徒達が数人、殺害された。
犯人は、いまだ行方が知れない。
今でも学校は変わらず、たくさんの生徒達が学び、遊び、卒業している。しかし、事件のあった三階の1−A教室は現在、窓が板張りにされ、ドアもノブを外され固定されている。在校生の間では、噂が立った。
夏の蒸し暑い日の夜には、校内を、殺された生徒の幽霊がうろつく、と。1−Aの教室は取り壊す計画があったが、いざ工事を始めると次々と不幸が起こり、そのため、あのようにそのままにしてあるのだ、と。
犯人は、いまだ行方が知れない。
現場に、凶器として使われたと思われるものは何も残っていない。開け放された窓から入る夜風に、血濡れのカーテンがそよいでいた。机の間に横たわる生徒達。
現場の第一発見者は、国語の教師。
教室の中で音を立てていたものは、掛け時計の秒針だけ。
犯人は、いまだ行方が知れない。
学校が再開した日、黙とうを行った。
授業をしている最中、霊感の強い友人が体調不良を訴えた。もう一人が、上の階から血のにおいがすると言って、怯えていた。
二人は半年後、他の学校に転校した。
犯人は、いまだ行方が知れない。
次の年から、後夜祭はなくなった。毎年学祭の時には、警察官が見回りを行うようになった。
皆、残念がっていた。私も残念だった。
あの、一瞬で散って自分を照らす真っ赤な花火がもう見れないのは、残念だった。
犯人は、いまだ行方が知れない。
犯人は、いまだ行方が知れない。
犯人は、いまだ行方が知れないそうだ。
雰囲気重視の、初めてのホラー短編でした。
「犯人は行方不明」という言葉の不気味さ。