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5.石田一家殺傷事件⑤

俺は今、愛知県弥冨市から三重県朝日町に来ていた。

俺が追っている事件のタレコミをした男、佐目野 宝次郎に会うためだ。


事前に何度も携帯電話に連絡をしたのだが、一向に出なかった。近頃の若いモンは知らない電話には出ないとよく聞くが……警察の番号(110)を知らないわけがない。ワザと無視しているのだろう。

仕方がないのでこうして直接ヤツの家を訪問することにした。


調査したところ、佐目野は()()で一人暮らしをしている。

まだ20代だというのに、その点に関しては同情する。


警察署から90分ほどかけ、佐目野の家に到着した。家周りを観察すると、車と自転車が置いてある。どうやら外出はしていないらしい。


今時には珍しいカメラ機能のついていないインターホンを押す。

田舎ならそれも珍しいことではないのかもしれんが……


『はい、もしもし?』

訝し気な声が聞こえてくる。


「こちら、愛知県警のものですが少しお話伺ってもよろしいですか?」


俺が言い終わるとガチャリと通話を切られてしまった。あまりにも不躾な対応に一瞬ムッとしたが、次の瞬間ヤツが玄関に出てきた。

(玄関に出るため通話を切っただけか……)

佐目野は、ボサボサの髪に眼鏡をかけ、上下黒のジャージ姿をしていた。普段からずっとこういう格好で過ごしているのだろうか?


「警察……?すいませんが、所属と名前。それから警察手帳の提示をお願いします」

腐っても元警察官(※警察学校生)というわけか。鬱陶しいほど用心深い。が、それは褒めておくべき点だろう。


「愛知県弥冨警察署。刑事課の河内勘助。警察手帳は今持ち合わせていない。申し訳ないが、俺は今仕事で来ているわけじゃないからな」


「そうですか。では、あなたと話す義務はないわけですね。失礼します」


佐目野が玄関扉を開け、家の中に戻ろうとした瞬間、


「……弥富市一家殺傷事件」


何の脈絡もなかったが、俺がそう言うと、初めてヤツから手ごたえのある反応が返ってきた。

こちらを振り返り、眉をピクリと寄せ、苦笑いをしている。


「どうぞ、お入りください」



リビングに入ると、そこには60cmほどの水槽が置かれていた。

カラフルな水草に、手のひらサイズのヒラヒラとした魚が数匹。よく見ると、底の方にも灰色がかった4.5cmほどの魚がまとまって、わちゃわちゃと泳いでいる。近づいてみると、何匹かの魚がこちらに向かって尾びれをくねらせながら近づいて来た。


相手の緊張を、警戒心を解くには相手の趣味に関心をよせてやるといいよな……


「きれいだな。なんて魚なんだ?」


「あー……そういう質問してくる人は、言っても分かんないだろうし、説明しても覚える気ない人がほとんどなので答えたくありません。無理に会話つなげようとしなくていいですよ」


無愛想にそう言うとヤツは台所へ行き、コーヒーを出す準備を始めた。

なんてやつだ。そういう態度ばかりとってたから警察学校でいびられたんじゃないのか?


「うちに砂糖おいてないんで、ブラックでもいいですか?」


「ああ」

別に構わんが、そういう質問はコーヒーを淹れる前にするべきだろう?


「それで?今日はどのようなご用件……いや、弥富市一家殺傷事件についてでしたね?」


「石田さんに助言したのはお前だな?」


「あの人、私のことばらしたんですか?」

苦笑いをしているが、敵意は感じられない。


「いや、かまをかけたらひっかかった。そんな真似するやつはお前しかいないと踏んでやったことだが」


「それで?捜査はその通りにすすめてくれたんですか?」


「その通り……というべきか、実はそれより1週間も前に似たようなタレコミがあってだな」


俺の台詞を聞いてヤツは目を見開く。


「どこからだと思う?」


「さぁ?」

首をかしげている。本気で分からないのだろう。


「豊田自動車整備工業大学の教授からだよ」


ヤツが無言のままでいるので俺は言葉を続ける。


「『被害者遺族の支援者の佐目野という男からの頼みで、調べたら凶器に使われていたものと同じ型のスパナの紛失が発覚し、まさかと思い、留学生を調べたら左利きでO型に当たる人物がいた』そうだ」


「…………」


「お前は1週間も前に独自に得ていた情報を、霊視と偽って石田さんに得意げに話してたわけだ」


ヤツは無言のまま。コーヒーをチビチビと飲み続けている。

目をつぶっているため、詳しい表情は読み取れない。


「お前に霊能力はない」


俺がそう断言するとヤツはカップをテーブルに置き、「ふーっ」と息を吐き出し苦笑いしながら答えた。


「そりゃそうでしょ」


ヤツがあっさりと自分に霊能力がないことを認めたことに多少驚く。


「何故わざわざそんなことをしてるんだ?」

怒りを抑えながら質問をする。


「日本の警察が胡散臭い自称霊能力者1人に負けてる、なんて……最高に笑えるじゃないですか」


ヤツは口元を手で覆いながら愉快そうに「ククク」と笑っていた。

あまりにくだらない理由に、俺は呆れてものも言えなかった。


ヒラヒラした魚=エンゼルフィッシュ

底の方でまとまってわちゃわちゃしてる魚=コリドラス

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