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41.狂怖の登山③

「それでは、登山を開始します!」


1合辺りにかかる時間は多く見積もって1時間。登り・下りともに8合目にある山小屋で休憩を挟むことになっている。


3人のガイドがそれぞれ前方・中央・後方に着く。

前にいるガイドがリーダーの前田さん。中央にいるガイドが中島さん、後方にいるガイドが後藤さんというらしい……本名かどうかはわからないが。


私と佐目野君は登山未経験者ということで最後尾に配置された。空気を読まずにどんどん先に進まれては困るということらしい。


途中、案の定というべきか。オバさんたちが後ろまでやってきて、佐目野君に会いに来た。

当然ガイドの後藤さんに引き剥がされた。が、その後何回も後ろを振り返り話しかけて来た。

これには佐目君だけでなく、後藤さんも苦笑いせずにはいられなかった。


「……ガイドさん、今何合目ですか?」


佐目野君が遠い目をしながら質問をする。


「6.5合目ってところですかね。もう疲れましたか?」


「はい……精神的に」


「ハハハ!佐目野君!まだ始まったばかりだぞ!早く慣れなきゃ!後10時間近くは共に行動しなきゃいけないんだぞ!それに、小屋で休憩をとる時は今よりも……」


佐目野君の顔が見る見る青ざめていく。


「嫌な現実を突きつけないでくださいよ……このままじゃ私、発狂しちゃいますよ?」


「そうか!それだよ!」


「え?何ですか?急に……」


「例の伝承さ。君の言うように……実は仲間うちで揉め事が起きていたのかもしれない。だから皆リーダーに口を聞かなくなった。リーダーは原因がわからず、仲間たちに更に話しかける。気に食わないから仲間は当然無視し続ける。そんな態度をされ、リーダーは怒鳴り散らしたりした。

でも、仲間たちからすればリーダーが嫌いだから無視しているというのに、そんなことも分からず怒鳴られ続けたらたまったもんじゃない。

仲間たちのストレスはピークに達し、とうとう気がふれてしまった。

だからこそ、この真相に気づいた人々は二度とこのようなことが起きないように()()まし合うことの必要性を訴えることにしたんじゃないかな?」


佐目野君がキョトンとしながら、こちらを見てくる。

やがて、ニヤニヤと笑いながら答える。


「なるほど、なるほど。そういう考えですか……では、謎が無事に解けたということでここで御開きということに……」


「駄目だよ」

「駄目ですよ」


私とガイドさんは同時に答え、思わず顔を見合わせて笑った。


それから間もなく。7合目付近までやってきたところである種の難所に差し掛かった。

川が流れているのだ。ここが伝承に出た川なのだろうか。

そこに橋は無く、水面から出ている石の上を1つ1つ渡っていくしかない。幅自体は4m程しかないのだが、重い荷物を背負った状態の還暦を過ぎた老人たちにはキツイだろう。

やはりというべきか、男性ツアー客2人が足を滑らせてズボンを濡らし、中央にいるガイドの中島さんに至っては全身川にダイブしてしまった。


「あの人たち、大丈夫でしょうか?」


「8合目に小屋もあるし、何とかなるでしょ」


「それにしてもあのガイドさん、伝承通り突然川に飛び込みましたね」

佐目野君が真顔で呟く。


「そういう笑えない冗談は言わない方がいいよ」


「冗談なんかじゃありませんよ。とても嫌な予感がします」


佐目野君の嫌な予感は的中し、それから30分程して大雨が降り始めた。

彼は唐突にリュックをまさぐり、中から黒の折りたたみ傘を取り出してみせた。他に差している人なんていないのに、周囲の目もお構いなしだ。かく言う私も、その中に入れて貰っているわけだからあまり責められたものでもないが。


「天気予報では晴れだって言ってたのに、よくそんな物持ってきたね」


「荷物の中に何か詰め込む時は必ず入れてます。何が起こるか分かりませんからね」


だが、悪いことは続くもので次第に風も強まってきた。屈み込まなければ進めない程。当然、佐目野君の傘はお釈迦になってしまった。

佐目野君は傘の代わりに、帽子を取り出して深く被り、タオルを首に巻いた。私も彼に言われた通りその恰好をする。


突然、先頭のガイドの前田さんが声を上げる。


「すいません、ちょっと待っててください……」


他のガイドは手招きされて前田さんの方へ走って行く。ツアー客は言われた通りその場で待機していた。が、あまりの風の強さに立ってはいられず皆んなしゃがみ込む。

佐目野君はその間、リュックからチョコレートを取り出し貪り食っていた。

「よくこんな時に食べられるね」と言うと、「こんな時だからこそですよ」と苦笑しながら答えた。


ガイドたちが話を始めて5分程経過した時。


「えー、皆さんに大事なお知らせがあります。大変申し訳ございませんが、天候不良のため登頂は中止とさせていただきます。今から下山を始めます」


ガイドリーダー「お客様に覚えてもらえるよう、それぞれの名前にあった配置につくことにしましょう」

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