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4.石田一家殺傷事件④

佐目野と会った翌日、僕は警察署へと向かった。


「すいません。僕石田というものですが、刑事課の河内さんいますか?」

河内さんはあの事件の担当刑事だ。50代で身長は175cm近くあり、無骨な印象を受ける。階級は警部補だと聞いた。


「少々お待ちください」

新米と思しき若い男性警官が席を立つ。


それから1分程して河内さんが来た。突然の訪問だったので出払ってるかもしれないと思っていたが、運がよかった。


「お待たせしました。それで、本日はどのようなご用件で?」


「実は、事件について僕宛にタレコミがありまして……」


「ほう?」


「これがそうなんですけど……」

僕はおもむろに佐目野が霊視した犯人の特徴に関するメモを渡した。これは佐目野が帰った後でら手書きのものからパワーポイントで作り直したものだ。


─犯人像─

・怨恨ではなく、強盗殺人の延長

・O型の左利き

・現場周辺にある比較的有名な大学の留学生

↑学部は工業学科(自動車関係)

おそらく、豊田自動車整備工業大学

凶器のスパナは大学で盗んだもの


「……これは?」

河内さんが訝しげな表情でこちらを見てくる。


「玄関にそれが入っていました」


河内さんが、ふぅーっとため息を吐く


「それはいつ頃?」

声は小さいが、河内さんが凄みのある顔でこちらを睨んでくる。


「ええっと、昨日の夕方頃です」


「……佐目野 宝次郎」

河内さんがポツリと呟く


「!?」

いきなりその名前を出されたことに驚き、声にもならない声が出た。


「そうか、やはりか…わかった。あとはこちらで何とかする。ご苦労さんでした」


「あの!どうして佐目野さんからのタレコミだと分かったんですか!?」


「……今日はもうお帰りください」

河内さんが冷たくそう言い放つ。どうしても理由は教えてくれないらしい。


諦めて帰ろうとしたところ、河内さんが僕の背中越しに何やら語りかけた。


その台詞があまりにも小さかったので、願望による聞き間違えかもしれないが僕にはこう聞こえた。


「安心しろ。もうすぐ犯人は捕まる」


思わず振り返り、河内さんの顔を見たが何事もなかったかのようにムスっとした表情で遠くの方を見つめていた。やはり、聞き違えだったのかな?


次の日を迎えてもなお、疑問は消えることはなかった。

警察は何故、佐目野のことを知っていたのだろうか?

駄目元で僕は手津田さんに聞いてみることにした。


「もしもし?手津田さん?今時間大丈夫ですか?」


『ああ。大丈夫だよ』


「実は今日、佐目野さんのことは伏せた状態で刑事に犯人像のタレコミをしたんですけど…どういうわけか佐目野さんによるものだとバレてまして」


『そう……まあ佐目野君は警察の間ではある意味で有名になってきてるからね。

何の前触れもなく、被害者遺族が犯人につながる情報を持ってきた場合、十中八九佐目野君が噛んでいると認識されてるんだと思うよ』


「『良い意味で』ではなく、『ある意味で』有名ですか……確かに霊能力者が出しゃばられたらいい気になれませんよね」


『それだけが理由じゃないよ。彼はなんせ……元警察官だからね』


「え!?」


『正確に言えば、警察学校までだけど。度重なるパワハラを受けて3か月で辞めている』


「3か月……確か、警察学校の期間は6か月でしたよね?」


いやに区切りよく辞めたもんだ。


『そう。だから、6か月の半分に当たる3か月目に中間テストが行われるわけだが……彼はそこでカンニングしたという汚名をきせられて無理矢理辞めさせられたのさ』


「汚名……って、そんなことがあるんですか!?」


『使用期間とはいえ、公務員だからね。民間企業と違って仕事が出来ないという理由で簡単には解雇が出来ない。だから不貞行為を働いた人物、として解雇することにしたんだろう。

 彼はショックのあまり、鬱病とPTSDを発症してね。3か月後に睡眠導入剤を大量に飲んで自殺を謀った。運よく一命を取り留めたわけだが、その時だろうね……』


─僕は黙って手津田さんの次の言葉を待つ。その時何があったのだろう?


『その時から霊能力に目覚めたんだろうね』


「ん!?」

あまりに予想外の言葉に仰天する。


『彼は生と死の狭間に迷い込んだ。その結果、霊界へのコンタクトが可能となり霊能力者として覚醒したんだよ!』


手津田さんが嬉々として喋る。そういえば、手津田さん、オカルト好きだったな。


「はぁ……それで、一体なぜ手津田さんはそんなに佐目野さんについての情報を詳しく知っているんですか?」


この手の話になると、面倒なので素早く話を逸らす。


『なぜ……って。彼と仲がいいってのもあるけど、この件に関しては普通に裁判資料を読んだんだったかな?』


「裁判?それってつまり……」


『ああ、ごめんごめん。言ってなかったね。彼は愛知県警を相手に訴訟を起こしたんだよ』


それは少し意外だった。


「それで、裁判の結果は?」


『佐目野君の主張が一部認められて、無事に損害賠償を受け取れたはずだよ』


─なるほど。だから河内さんは佐目野が関わっていると分かると不機嫌になったのか。

警察を訴えた裏切り者の元警察学校生が、今度は霊能力者を名乗ってしゃしゃり出てきてるのだから無理もない。


「わかりました。どうもありがとうございました」


電話を切り、僕は考える。

結局のところ、佐目野は何故、霊能力者を名乗るようになったのだろう?


「もしかして、手津田さんの言うように本当に覚醒したとか?

 ……まさか、ね」


無能記者

ちなみに正しくは「県警」ではなく、「県」を相手に訴訟を起こすことになります。

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