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33.豊橋の吸血鬼②

「顔色悪いけど……また眠れなかったの?」

妻の菜子が心配そうに尋ねてくる。


「あぁ……」


あの日から1週間近く経つというのに、未だにあの光景が脳裏にこびりついて離れない。夢にまで出てきて、ろくな睡眠もとれずにいる。

ニュースの話題はこれで持ちきり。否が応でも目に入るため、忘れたくても忘れられない。

なんでも、犯人が被害者の血液をコップに入れて飲んだ形跡があることから、メディアは面白がって「豊橋に潜む吸血鬼」などと取り上げるようになった。



「今日はせっかくの休みなんだから、気晴らしに運動でもしてきたら?最近、身体が鈍ってきたってボヤいてたでしょ?」


「……とは言ってもなぁ。やる気になんねぇよ」


菜子が俺のことを心配してくれているのは分かるんだが、こればかりは仕方ない。


「そ。じゃあ私、マロンの散歩に行ってくるから」


散歩という言葉にマロンは尻尾を振って駆け寄る。

菜子が俺と結婚する前から飼っていた4才になる雌のトイプードル。

結婚後も家を空けることの多い俺には一向に懐こうとしないが、吠えるような真似もしない。

俺も別にマロンのことは好きでも嫌いでもない。そういう意味ではお互い、似た者同士だ。


「待てよ。俺が散歩に行く」


「へぇ、珍しい。マロンと仲良くなりたくなったの?」

菜子がニヤニヤと笑う。


「そうじゃねぇよ……あんな事件があった後だぞ?何かあったらどうする?」


「何かって……別に良輔がいない間、私1人で散歩してても問題なかったわけだし。それに、何かあったらマロンが助けてくれるわよ……ねぇ〜マロン!」


そういうと菜子がマロンの首元をワシャワシャと撫でる。マロンも嬉しそうに尻尾をブンブン振り回す。


「いいから、俺が行く」


そりゃ犯人が捕まるまでの間は毎日でも俺が散歩を代わってやりたかった。けど、こっちだって仕事があるからそんなこと出来るわけがない。

だからせめて、代われる時だけでも代わってやりたい。


俺がリードをとると、マロンは菜子と俺を交互に見つめた後不服そうに唸った。

……安心しろ。俺もお前との散歩は乗り気じゃない。


普段の散歩コースなんて俺は知らないが、マロンの方はしっかり覚えていた。ぐいぐいと俺を引っ張って行く。これじゃあまるで俺の方が散歩させられてるみたいだ。そんな事を考えながら歩いていると、眼鏡をかけたスーツ姿の若い男が近所のオバさん相手になりやら話しこんでいるのが、見えた。


今の男、どこかで見た事あるような……


年齢も、身長も俺と同じくらい。180cm近くある。

学生時代の知人?いや、あんな背の高い奴いたら覚えてるはず。

まてよ?そういえば、警察学校で似たような奴がいたような。そう、確か佐目野だ!

警察学校は俺と同じくらい背の高い奴なんてゴロゴロいたし、髪型は全員スポーツ刈りで統一されてたから、しばらくはアイツの顔と結びつかなかった。


優秀な奴は印象に残りやすいが、駄目な奴はもっと印象に残りやすい。アイツは何をやっても鈍臭くて、見てるこっちまでムカつくほどだった。

挙げ句、才能が無いからと自分の意志で警察学校辞めた癖に八つ当たりで裁判まで起こしたと聞いた時は、[怒りを通り越して呆れる]をそれまた通り越して怒ったのを覚えている。


けど、アイツ確か自己紹介の時に三重県から来たって言ってたけど、何でこんなとこにいるんだ?


警察学校辞めた後も自宅には帰らず、愛知県内に住み続けてたってことか?

それとも、三重にある自宅に住んでいるけど、何かしらの用があってここに来たってのか?


本人に聞くのが一番手っ取り早いが、無駄話をするほどの仲じゃねぇし、アイツも大した用があってここにいるわけじゃねぇだろ。


無視して佐目野の側を通り過ぎようとした時、凍えるように冷たい視線を感じた。思わずその先を振り向く。


……んなわけねぇか。


視線の先には、こちらの気配に気づく様子もないまま、談笑を続ける佐目野の姿があるだけだった。

怒りで感情が360度動いた

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