3.石田一家殺傷事件③
「そろそろかな……」
『S』からのアポイントを受けてから3週間後の今日、僕は彼と会う約束をしていた。
『石田さんの自宅を直接見てみたい』
と言われた時は、見知らぬ人物を家にあげる抵抗感と、わざわざ自宅まで来てもらうことへの申し訳なさとで断りを入れようかと思ったのだが、手津田さんから紹介してもらった手前、無下に扱うことも出来ず結局自宅へ招き入れることにしたのだ。
チャイムの音が鳴り響く。
来た……僕は直接玄関に出た
「はい」
「初めまして。佐目野です」
身長180cmほどの高身長。黒いスーツに黒い眼鏡をかけた男が立っていた。年齢はいくつなのだろう?
端正な顔立ちをしていて、どこか幼い感じがする…童顔だとか、若く見えるとかではなく、幼く見えるのだ。社会の苦労を知らない…子供がそのまま大人になってしまったような、そういう印象。
「お待ちしていました。どうぞ、中へ」
「失礼します」
リビングへと招き入れ、お茶を出す。佐目野は「どうも」と軽く会釈してお茶を飲む。
しばらくした後、佐目野は申し訳なさそうに口を開いた。
「ちょっと家の中を見させてもらってもよろしいですか?」
「ええ。それは構いませんが、それはどうして…」
「貴方にとっては辛い理由です。集中もしたいですので申し訳ございませんが私一人で行わせてください」
その言葉の意味を僕は理解した。
要するに、彼は犯行現場……母と弟が亡くなった場所で何かしらをするのだろう。
僕が黙ったままでいるのを肯定と捉えたのだろう。彼は手に持った資料を元に家の中を歩き出した。
事前にこの家の間取りは印刷していたようだ。
我が家の間取りはメディアでも度々載せられていたからなぁ。
佐目野が家をウロウロとしている間、僕はリビングでボーッとしていた。
やる事がない。何もやりたくもない…
ふと、仏間の方から経を唱える声が聞こえてきた。
しばらくすると、別の部屋で佐目野が誰かと話をする声が聞こえてきた。
この家には今、僕しかいないのだから携帯で誰かと通話しているのだろう…そうであってほしい。
程なくして、佐目野がリビングへと戻ってきた。心なしか、頬がにやけているように感じる。薄気味悪い。
「お待たせしました」
……僕は無言で彼の次の言葉を促す
「今から私が言うことをメモしてください」
わけも分からぬまま、言われるがままに僕は慌ててメモ帳とペンを持った。
「メディアなんかでは、怨恨による殺人だとか言われていますがそれは違います。これは、金銭が目的の物取り。それが居直り強盗になった形です。犯人は左利きのO型。大学生、ここからそう遠くないところ…県内にある、自動車整備などが学べる、比較的有名な大学の留学生……恐らくは豊田自動車整備工業大学。凶器に使われたスパナはそこで盗んだもの」
「え!?どうしてそんなことが分かるんですか?」
「霊視……ということにしてもらえるとありがたいですね。今言った情報を警察にそれとなく伝えておいてください。遺族である石田さんの意見なら受け入れてもらえるでしょう」
「あの、警察にはなんて説明すれば…」
「それはお任せします。が、いやらしい話、報奨金が支払われた場合は私にお願いしますよ」
笑いながらそういうと彼は荷物をまとめて家を後にした。
家で一人になった僕はポツリと呟く。
「霊視……ねぇ」
本当にそうなのだろうか?彼の言葉はどこかひっかかる。
「霊視です」ではなく、「霊視ということにしてもらえるとありがたい」という台詞。
それに、もし、仮に霊視出来たとしてどうしてそんなに詳しく分かるのだろうか?
ここに生き証人もいるというのに。生きている人間より、死んでいる人間の証言の方が正確であるなんてことあるのだろうか?