表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/55

29.ドッペルゲンガー :佐目野側

私、佐目野宝次郎の下にはたびたび怪奇な現象の解決を求める依頼が舞い込んでくる。

今も一人の若い女性からとある依頼を受けていた。


「ドッペルゲンガー……ですか」

私は思わず眉をひそめる。


「信じていただけないんですか?」


「いえ、そういうわけでは……ドッペルゲンガーといえば、エミリー・サジェが有名ですね。1845年、ラトビエの名門校に赴任した彼女はある日、黒板を書いている時2人に分身した。あまりの恐怖に生徒たちは卒倒。当初、分身体はサジェのすぐ近くにしか現れなかったが、次第に離れた場所にも出現するようになった。彼女自身に分身をしている自覚はないものの、一年以上にもわたりこの怪奇な現象が起きていたため不気味に思った学校はやむなく彼女を解雇することにしたのです」


「それで、彼女はその後どうなったんですか?」


「その後も分身現象が治まることはなく、どこへ赴任しても気味悪がられ厄介払い。最後は義妹の家でひっそりと過ごしましたとさ……ドッペルゲンガーとともに」


「そうですか。それで、私はどうなんですか?ドッペルゲンガーなんですか?それとも……」


「残念ながら、といいましょうか。ドッペルゲンガーではありません。生きた人間の仕業です」


ドッペルゲンガー:

これは脳腫瘍や精神に異常をきたした者が見る幻覚であるとされている。

脳に腫瘍があるのならそれが原因で病死するし、精神に異常があるのならパニックを起こして自殺してしまうことだってある。『ドッペルゲンガーを見たら死ぬ』と言われる所以(ゆえん)がこれだ。


だが、今回の依頼はそうではない。彼女の他にも複数人、彼女とそっくりな人物を見たと証言している。


「そうですか。生きた人間の……あの、こんなことSさんに頼むのは筋違いかもしれませんが、何とかしていただくことはできないでしょうか?」


「何とか、とは?」


「私の身を守ってほしいんです。その、家と会社までの間で構いませんので」


うーん……面倒だけど、浮気調査何かと違って通勤時間帯分かってるだけマシか。それに、すでに命が狙われてるわけだし。

ほっておいて後で殺されでもしたら夢見が悪い。


「分かりました。1日2万でどうです?」


「そんな大金はちょっと……1万円なら」


大金ってほどでもないだろ。いや、言いたいことは分かる。通勤片道1時間。往復で2時間。

時給1万円はいくらなんでも高すぎる、と。でも……


「あなたの命がかかっているんですよ?」


「わかりました、ではお願いします」


相手を脅すようなやり口、なんだか霊感商法じみてる気もするが仕方あるまい。


─翌日─

通勤時、彼女のマンションの近くに行く。中までは入らないし、彼女の隣を歩くようなこともしない。

そんなことをしていたら犯人に警戒されてしまう。つかず離れず。尾行の際は風景に溶け込むべし。

周囲を確認したが、それらしい人物は見当たらなかった。


夕方、彼女から連絡を受け会社まで向かう。周囲に怪しい人物はいない。

駅のホームでも同様。前回、帰宅時にホームで襲われたと聞いていたから警戒していたのだが大丈夫そうだ。犯人も[警戒されていること]を警戒しているということか。


だが、最寄りの駅へと到着し、マンションへと続く人気のない道路を通行していたその時!

()()()()()()()が向かい側から歩いてくるのが見えた。私は慌てて依頼者の元へ駆けつける。まさか、警護初日で出てくるとは。現れるのが早い。もうちょっと稼がせてから出てきてくれよ!


「彼女がそうですか?」


「えぇ。多分」


向こうもこちらを見て驚いている。依頼者曰く、普段この道を通る人はほとんどいないようだから(他の人)がこの場にいることが予想外だったのだろう。


ドッペルゲンガーとすれ違う時、私は声をかけた。


「あなたが、彼女をホームから突き飛ばした犯人ですね?」


「な、なんですかいきなり!そんなこと知りませんよ!」


「とぼけても無駄ですよ。あの時彼女の衣類に付着した指紋が残ってますから、調べればわかることです」


「そんなバカな!だってあの時私はちゃんと……ッ!!」

途中までいいかけるが、慌てて口を閉ざす。だが、もう遅い。


「ちゃんと、何ですか?『手袋をしていた』ですか?」

そう。残念ながら彼女が突き飛ばされた時、指紋は検出されなかった。

だからカマをかけのだが、こうもあっさり引っかかるとは。仕掛けたこちらも拍子抜けだ。

まぁ、指紋がなくとも防犯カメラ映像に依頼者を突き飛ばした姿がばっちり映ってるわけだから警察に突き出せばなんとかしてくれるだろう。


犯人はその場から逃げることなく、その場に立ち尽くす。ややあって、観念したかのように肩をすくめて苦笑いをした。


「あなたは彼女の知り合いなんですか?」


「いいえ、全然。私そっくりのその子を見かけたのは偶然、たまたま。付け狙うまで名前すら知らなかったわ」


「では、何故こんなことを?」


「彼女に……自分以外の誰かになりたかった。平たく言や、彼女の身分証やパスポートが欲しかったのよ」


成りすまし?だとしたら遺体を残したまま殺害しても…死人に成り代わっても意味ないだろ。

まてよ?『パスポートが欲しかった』?まさか……


「あんた犯罪歴があるのか?」


「そ。執行猶予中にやらかしちゃって。バレないうちに海外に高飛びしたかったけど、自分のパスポートじゃ審査に引っかかっちゃうでしょ?」


「そうですか。でも、よかったですね。海外には行けなくとも、気の合う仲間たちの待つ刑務所(べっそう)へはすぐ行けますよ」


ドッペルゲンガーの事例は芥川龍之介にしようか悩みました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ