25.藁人形:佐目野側
私、霊能力者『S』こと佐目野宝次郎がテレビでの収録を終え 帰り支度をしていたところ、番組製作者から電話がかかってきた。
何事かと思いきや、取材同行の依頼。
「わざわざ電話しなくともまだ楽屋にいるのに」という旨を伝えると、私に会いたいという電話が今現在局内にかかってきているのだという。
面倒だし、話だけでも聞いて断ろうかと考えていたのだが……[今すぐ]とか[貴方を頼りにしている]という言葉にはどうも弱い。これと言った予定がないこともあり、ろくに内容も聞かないままOKを出してしまった。
後で、東京の小学生に対する誹謗中傷の落書きそして、藁人形が使用される被害が出ているという話を聞いた。お祓いの依頼かと思いきや、事件を何とかして欲しいという依頼であった。
……無理だろ。いや、やって出来ないことはないだろうけど張り込むしか解決方法ないでしょ?依頼者もそれが面倒だからやってないんでしょ?
私はハナから自分で事件を解決してつもりはなかった。さて、どうすれば警察を動かせられるものか。
基本的に、因果関係がなければ刑罰の対象にならない。非科学的なものは対象外だ。
でも、「死ね」と書かれてるなら脅迫罪として処理してくれるんじゃねぇの?
気になり、六法全書を引っ張り出してみると
刑法第222条
『生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者』
と書かれていた。今回は、[害を加える告知]ではなく[害を望む告知]だから厳しいわけか。
どうしたものか。藁人形を木に打ち付けていてくれりゃ器物損壊罪に問えたろうに。まてよ、器物損壊……そうだ!落書きもそれに該当するな!
翌日、テレビクルーとともに東京へ赴き依頼者に会うと落書きの場所へと案内してもらった。その際、カメラマンにしっかりと落書きの文字を写してもらうことを依頼。
他にも藁人形が置いてあった場所や、脅迫を受けている香令小学校の外観を見てまわった。
しばらくすると、レポーターが依頼者に
「ところで、その藁人形は今手元にありますか?」
と質問する。
「いや、気味が悪いもんで捨ててしまいました。ただ、念のために写真だけはとってあります。こんなことなら、本物を保管しとけば良かったですな。先生がおいでなら、霊能力で犯人を割り出せられたでしょうに」
え!?私にそんな能力があったんですか?
初耳なんですけど!
依頼者のそんな話は聞き流しつつ、私は今回の被害を落書きとして、つまりは器物損壊罪として警察に相談することを提案した。
皆んなあまり納得していない様子であったが、反論する人はいなかったので警察署へと赴いた。
最初は「そんなことで」としぶっていた警察も、公園の落書きと藁人形に書かれてる筆跡が同じであることを確認すると「子どもたちが危険な目に合う前に、何とかしなければいけませんね」と捜査に乗り出した。
後日、町内の監視カメラ映像をもとに近所に住む40代の無職の男性が逮捕されたと聞いた。
「子どもたちの声がうるさかったので、怖がらせれば静かになると思った」と容疑を認めているという。
藁人形で呪いの言葉をかけるより、無職のおっさんが直接怒鳴り散らした方が子どもたちに強い恐怖を与えられたと思うのだが。
ちなみに私の学生時代、廊下に「デ○ノート」と言う名の死んで欲しい人一覧が落ちていてちょっとした騒ぎになったことがあります。




