表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/55

21.神隠し:佐目野側

神隠し後編。

佐目野サイド

「Sさん、ちょっといいですか?」


放送が終わり、楽屋で帰る準備をしているとディレクターに声を掛けられた。


「はい、何でしょう?」


「実は……その、Sさんと話したいと言う方がおりまして」


ディレクターは言いにくそうに答える。

クレーマーか?いや、だとしたらわざわざ私に応対を求めない気もする……


「どなたからですか?」


「例の神隠し事件の姉である、上井瑠奈さんからです」


「分かりました。では、後で折り返しますので電話番号を教えてください」


家に帰ってからゆっくりと電話をしようと思ったが、それだと遅いか。生放送中に電話してきたんだから早く私と話したいのだろう。

とはいえ、会話がいつ終わるか分からない。あまり長い時間楽屋に居座っても迷惑だろう。


悩んで末、近くのカフェに立ち寄りそこで電話を掛けることにした。


向こうから何度もこちらに直接クレームを入れられては迷惑なので、番号の前に[184(非通知)]を押すべきか迷ったが、やめておいた。

それは流石に失礼だし、警戒されても困る。


『はい、上井です』


「先程、局にお電話していただいたようで。私、霊能力者のSです」


『生放送見ました。あの……あの発言は本当なんですか?何か根拠があって言っているんですか?』


焦りと怒りがこもった声だ。

根拠……ねぇ。その言葉で彼女が霊能力は信じていないであろうことを察する。


証拠はない。が、根拠はある。

しかし、それを今の瑠奈さんに伝えるのはあまりに酷だ。


「霊界と交信した際、麻衣さんと思しき魂が見えました」


『何ですか、それ。それが根拠ですか?』


瑠奈さんが呆れた様子で鼻で笑う。

やはり霊能力を信じていないな。まあ仕方あるまい。


「瑠奈さん、世の中には知らない方がいいこともあります。この事件の真相をあなたは知らないままの方がいい。けど、そう遠くない日に、否応無くあなたは真相を知ることになる」


『何を言って……』


「私の口から言えるのはそれだけです。瑠奈さん、どうか強く生きてください」


電話口からわめくような声が聞こえたが無視して電話を切った。無粋な切り上げ方をしたが、再び電話がかかってくることはなかった。相手にする価値もない奴と見限られたのかもしれない。


だが、これでいい。今の彼女に麻衣さんが亡くなった根拠を話すわけにはいかない。精神的負担が大きすぎる。



麻衣さんが殺害され、切断されたなんて話はすべきではない。


メディアが神隠しと騒ぐ理由。

警察の調べでマンションのどこにも麻衣さんはおらず、カメラに麻衣さんが出る姿もなかった……報道で はっきりと伝えているわけではないが、それは恐らく麻衣さんの生きている姿だけでなく、死んでいる姿……すなわち、遺体がマンションから運ばれる姿も映っていなかったということなのだろう。


では、麻衣さんはどこへ消えたか。

マンションのどこにもおらず、マンションから出て行く映像もない。

神隠し?否、そんな馬鹿げたことはありえない。

答えは簡単。麻衣さんは()()()()()少しずつマンションの外へと運び出された。


そんなことが出来る人間は、マンション住人以外に他ならない。


警察も馬鹿ではない。既に犯人の目星はついていて、あとは証拠をあげて終わるのだろう。



あれから5日。

麻衣さんの隣に住む32歳の男が逮捕されたという報道がされた。


帰宅した麻衣さんをナイフで脅し、猥褻目的で自室に連れ込むも行為には及ばず(実際はパニックで気持ちが萎えた為()()()だったのだろうが)、麻衣さんの扱いに困った犯人は口封じのために殺害。

自室にあったノコギリで遺体を切断し、数日に分けて外に運び出したという。



神隠しだのなんだのとメディアは騒いでいたが……

この報道を見て、私は月並みなことを思う。


結局人間が一番恐ろしいのだ と。


遺族のメンタルを気にするなら、生放送で亡くなったなんて言うなや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ