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2.石田一家殺傷事件②

あの日から1年。「もう」1年というべきか、「まだ」1年というべきか…


「色々あったなぁ……」


僕は、病院から退院した日のことを思い出していた。


忌まわしくも懐かしい我が家に戻ると、大量の封筒が届いていた。「なんだろう?」と不思議におもい、中を確認するとどれも似たような内容が書かれていた。どれも、僕を非難する内容が…僕を犯人だとする内容が…


怒りや、悲しみ、憎しみよりも先に『何故?』という感情が大きく沸き上がった。


が、詳しく読み進めていくうちに、その理由は分かった。曰く、「母親、弟そして飼い犬までもが殺されたのに、お前だけ生きているのはおかしい」「自作自演だ」と。


感情がぐちゃぐちゃになり、おかしくなりそうになる。


それらをまとめてごみ箱へと放り込んでからは何をするでもなく、いや…何もする気が起きずに死んだようにボーっとベッドの上に横たわっていた。


何時間か経った後、インターホンが鳴りだした。出るのも億劫だったので無視していたのだが、何度も何度もそれが鳴り響く。何事かと思い玄関へと出てみたら、何十人ものマスコミが押し寄せてきていた。


『事件についての詳細をお願いします!』

『犯人について何か一言!』

『お母さんや弟さんへメッセージを!』

『今の心境をお願いします!』


そんなような声が無数に聞こえてくる。


無視して部屋へと戻りたかったが、一度顔を出してしまった手前ないがしろにするわけにもいかず、適当な返答をしてからメディアを帰した。何を言ったのかは詳しく…いや、微塵も覚えていない。


僕はこの頃、人の感情をもてあそぶ『メディア』という存在が心底嫌いになった。


…が中にはいい人もいた。

手津田 貫(てつだ いずる)さんがそうだ。


52歳のベテラン男性記者。向こうから質問をしてくることはほとんどなく、僕の話を親身に聞いてくれ、身の回りの世話までしてくれている。今もこうして僕と一緒に事件の情報提供を呼び掛けるビラ配りを手伝ってくれている。


「犯人、見つかるといいね」

手津田さんが呟く。


「ええ」

僕も呟くように答える。


「実は私、この事件について興味を持つであろう人…というか、この事件を解決に導いてくれるかもしれない人を知っているんだけど」


「え!?誰ですかそれは?」

僕は思わず声を上げた。手津田さんは何やら意味ありげな感じというか、その人物がワケありな人であろうことを匂わせているがそんなことはどうでもいい。今は藁にもすがる思いなのだ。


「霊能力者の『S』だよ」


『S』という名前なら僕も聞いたことがあった。

前にみた未解決事件を追う特番。僕の事件もいずれこういう形でメディアに取り上げられるのだろうなとぼんやりみていた。

警察のOBやら、元FBI捜査官やらが出ていくがこれといった手がかりはでず。

最後に霊能力者を名乗るマスクを被った男がでてきたときは「真面目な番組かと思いきや、SFのおふざけ番組か」と苦笑したもんだが、その男が犯人につながる情報を言い当て、実際に犯人が逮捕されたと聞いたときは驚いたし、連日ニュースにも取り上げられた。


だが、某ネットの匿名掲示板をのぞいてみるとやらせだったのではないかとの声も多く上がっていた。

実は犯人はすでにわかっている状態で、現役の刑事がテレビ局に情報をリークしたのではないか、と。

リアルタイムで見たときは確かに驚いたが、今となっては僕もやらせなのではないかと思っている。


よほど、訝し気な表情をしていたのだろう。手津田さんが苦笑しながら答えた。


「不審に思うのも分かるよ。週刊誌なんかで、あれはやらせなんじゃないかって声が上がってるからね。でも、そんなことはないよ。彼はそれ以前にも事件を解決してきた実績があった。だから、ああして名前も知られていない、顔も名前も隠している奴がテレビに出られたんだよ。彼の力は本物さ」


「はぁ……」

つい、気のない返事をしてしまう。


「まぁ、1度騙されたと思って。いや、まぁ、騙されてもデメリットはないから頼んでみなよ。なんせ、彼は基本犯罪被害者から報酬を受け取らないからね」


「え?じゃあ、何が目的でそんなことしてるんですか?」


「金は稼いでるよ。警察が出す報奨金を貰ってね。彼曰く、『困っているはずの遺族から金銭を要求するわけにはいかない』だそうだが、本音は…あぁいや、何でもない。本音は別にあるんだろうがね」


報奨金……なるほど、だから手津田さんはこの時期になるまで『S』のことは伏せていたのか。


「うーん。そうですね、では紹介してもらってもいいですか?」


僕は霊能力なんて非科学的なものは信じていない。でも僕は手津田さんのことは信用している。だから、手津田さんの信じる『彼』のことを信じてみることにした。


「ああ、わかった。じゃあ、この後『S』に連絡しておくよ」



その日の夜、僕の携帯に電話がかかってきた。

手津田さんからかと思っていたのだが、知らない番号からの着信だった。もしや……と思い電話に応答する。


「もしもし?」


「夜分失礼します。こちら、石田さんのお電話でよろしいでしょうか?」


「えぇ。そうです」


「私、手津田の紹介でご連絡いたしました。『S』こと佐目野 宝次郎と申します」


鮫のホオジロー

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