17.片田舎の災いの裏で…③
─ちょっと詳しい話を聞かせてもらおうじゃないか。
「え!嫌ですけど!」
きっぱりと断る。
任意同行ですらないのに話たくないんですけど!
「お前はさっき、佐藤さんに何故初対面である自分たちのことが分かったのかと聞いたな。
お前こそ、よく我々が警察官だと気づいたな。それとも……何か警察に目をつけられるような心あたりでもあるのか?」
嫌味ったらしい言い方をしやがって……
「話し合うつもりはないと言いましたけど?」
そう言い放つと私は刑事に背を向けてそのまま自分の席に戻った。
残念ながら、『お前から刑事に絡みに行ったんだろ!』という突っ込みは受け付けない。
「佐目野君、ちょっと!」
席に座ろうとした瞬間、手津田さんに腕を引っ張られて再び刑事の前に連れてかれた。
「いてて!離してください!」
私の言葉を無視し、手津田さんが刑事2人に頭を軽く下げる。
「すいません。この子、普段は真面目なんですけど警察を前にするとどうもあがってしまうらしくて」
はい。警察を前にするとストレス値があがります。
「……まあ、いいでしょう。で?あなた方はここで何をなさるつもりだったんですか?」
「私、フリーの記者をやっております手津田貫と申します。今回は、詐欺被害に遭われた方の記事を書いております。
そして、この子は霊能力者の『S』こと佐目野宝次郎君です」
手津田さんに紹介されたのでは仕方ない。
私はムスッとした表情のまま、軽く会釈をした。
……それにしても手津田さん。さっきから『この子』呼ばわりするのはやめてほしいね。ガキ扱いしよってからに。
「その話は既に佐藤さんから聞きましたがね……霊感商法の被害に遭われた方に、霊能力者とインタビューですか」
刑事が鼻で笑う……うん。むかつくけどそれが普通の反応だわね。怪しいでしょ。
「はい。今回の詐欺被害で、本職の霊能者も風評被害を受けているわけですから。そういう方の意見も交えて記事が書けたらなと思いまして」
「ああ、そう。本職ねぇ」
「何かおかしいですか?」
私よりも先に、手津田さんが反論する。
「その年で?その格好で?普段はどんなことして金稼いでるわけ?」
なおも馬鹿にした調子で質問してくる刑事
私も馬鹿にした調子でそれに答える。
「年齢は関係ないですよ。才能が物言う世界なんですから。
格好に関しては……こんな寒い地方の普通の喫茶店の中で、和装してるやつの方が怪しいでしょ。
普段の仕事に関しては、そうですね。あなた方が手をこまねいているような事件を霊能力で解決して金を稼いでますよ」
刑事がピクリと眉を動かす。
「我々が手をこまねいている事件?」
「最近で言えばそうですね。事件ではないですが、ここ帯広市内であった一酸化炭素事故。
あれ、解決したの私ですよ。調査したガス会社の人にでも聞けば分かると思いますが」
正確に言えば、あれは霊による仕業を完全に否定したうえで、科学的な根拠に基づいて解決したわけだが……そこに関しては手津田さんも反論してこなかった。
「……わかった、もう結構だ。席に戻ってコーヒーでも飲んでろ」
そういうと、さっきからずっと喋ってる刑事Aはさっきからずっと黙ってる刑事Bに耳打ち。
刑事Bは退席して店の外へと出ていった……マジで素性調べるつもりなのか?別にいいけど。
席に戻ろうと後ろを振り返ると、すぐ傍で佐藤さんがオロオロとした様子で突っ立っていた。
思わず体がビクつく。いつからそこにいたのだろう?ここにいる刑事なんかよりよっぽど張り込み上手いんじゃないのか?
「佐藤さん、誤解を与えてしまったようで申し訳ございませんでした」
手津田さんが謝罪をする。手津田さんの手抜かりがあったことは事実だが、別に謝らんでもいいと思うのだが。むしろ、誤ったことに対してそっちが謝ったらどうだ!
「いえ、こちらが勝手に勘違いをしてしまっただけですので。
こちらこそ、あらぬ疑いをかけてしまい申し訳ございませんでした」
気まずい空気が流れて、そのまま解散。我々は家に帰ることに……なればよかったのだが、そんなことにはならず、どちらから言い出すともなく、当初の予定通りインタビューが開始されるのだった。
早く帰って水槽の管理をしたい




