12.片田舎の災い②
寒い……
スーツに黒のトレンチコートを着た姿の私は、体を震わせていた。
恰好つけずに厚手のジャンパーでも着てくればよかった。
海木さんから依頼を受けてから3日後。私は、帯広空港に来ていた。
片田舎だと言うから目的地にたどり着くだけで一日が潰れてしまうのではないかと心配していたのだが、なんてことはない。依頼者宅は帯広空港から車で30分もかからぬところにあった。それのどこが田舎なのか?
空港のタクシー乗り場へ行き、依頼者宅の住所を告げる。
すると……運転手が眉をひそめて尋ねてきた。
「お客さんあそこに行くの?」
あそこ?その言い方に何やら嫌な予感がする……
「ええ。何かあったんですか?」
「おや、知らないのかい?あそこの土地、ここ1~2週間のあいだに何人も人が亡くなっているんだよ」
……何人も?依頼者から近所に住む秋田さんとやらが死んだことは聞いていたが。
依頼を受けてからさらに死者が出ているということか。
「知り合いの婆さんが、『祟り』だの『災い』だのと怯えてしまいましてね。そんなことはないよ、と安心させるために来たのですが 今そんな大変なことになっているのですか」
嘘はついていない。
「あそこは都市開発が進んでいて……住民たちは反対したんだけど反対押し切って工事進めてね。その頃かな?そういう不幸なことが立て続けに起こりだしたのは。
だから、住民の間では『我々がちゃんとこの土地を守り切れなかったから先祖の霊の怒りを買ってしまったんだ』と言い出す人もいてね」
……先祖の霊の怒りねぇ。そんなものがあるのなら、怒りの矛先は工事関係者に行きそうなもんだが。
だが、今の話を聞いて何となくこの奇怪な出来事の原因は分かってきた。
「お客さん、着きましたよ」
考え事をしていると時間が経つのは早い。
気が付くと、既に海木さんの家に到着していた。
「どうも、ありがとうございます。それから……領収書ください」
50万くれるなら必要経費はもらわなくてもいいかもしれないが、念のためにもらっておこう。
タクシーを見送ってから、海木さん宅のインターホンを鳴らす。
『はい?どちら様でしょうか?』
中年の男性の声が聞こえてきた。この人が依頼者の息子さんか。
「海木呼子さんから依頼を受けました、佐目野宝次郎と申します」
『少々お待ちください……』
玄関から、息子さんが出てきた。40代、身長は170㎝前後。黒のズボンに無地の鼠色の長袖を着ていた。
「あなたが……母が依頼したという霊能力者の『S』さんですか?」
品定めするかのように…否、胡散臭そうな目で私をジロジロと見てくる。
やめろ。お前にそんな目で見られる筋合いは……
筋合いは……ある(事実霊能力ないし)、かもしれんが、こっちもお前に用はない。とっとと母ちゃん連れて来い。
「はい。呼子さんはいらっしゃいますか?」
しばしの沈黙。そして、次に私の予期せぬ言葉が返ってきた。
「母は……もういません」
「え……?」
タクシーの運転手がこの地区の住民が何人も亡くなっていると話してはいたが、まさかこんなタイミングで……一足遅かったか……
「母は今、市内の病院に入院しています」
おい、紛らわしい言い方してんじゃねぇよ。
佐目野氏宅に置いてある水槽の電灯の管理及び、餌やりに関してはタイマーをセットしているので数日間家を空けていても問題ありません。