11.片田舎の災い①
全4話
─12月某日─
午前6時:起床。別に定職に就いているわけでもないから、もっとゆっくりしてもいいと自分でも思うのだが、雨でも降らない限りこの時間に起きて食事の前に軽いジョギングをすることが日課になっている。
(でも、やっぱり今日は寒いし走らなくてもいいかな……)
いやいや。
気分が沈んでいる時や、運動する気が起きないときでも……否!そういう気持ちに陥っている時こそ無理にでも体を動かすべきなのだ。
運動するとエンドルフィンと呼ばれる脳内麻薬が分泌され、神経を落ち着かせる作用を与えてくれるのだ……と大学の何かの講義で聞いた気がする。
専攻している学科とは別の科目だったのでなんの授業かは忘れた。あれは一体何の授業だったか?
寝巻はジャージにしているので着替える必要はないのだが、寒いのでその上からさらにウィンドブレーカーを羽織り、出かける直前に、熱帯魚とクサガメにそれぞれ餌を与える。
午前6時10分:家を出てからは、おじいちゃんの全力疾走程度の速さでジョギングを始める。
近所のスーパーが見えてくると、そのあたりで折り返す。正確な距離を測ったわけではないのだが、片道2㎞ほどではないだろうか?
午前6時30分:人一倍寒がりで冷え性な私は、冬場のジョギングで汗をかくことはない。体温が人並みまで上がるのみ。だが、とりあえずシャワーは浴びることにしている。
午前6時50分:トーストとコーヒーで軽い食事を済ませる。本当はもっとしっかりしたものを食べたいのだが、如何せん朝は凝った料理を作る気になれない。
午前7時30分:食事を終え、ひと段落するとパソコンに向かいメールチェックを行う。
霊能関連の依頼は基本的に携帯ではなく、パソコンを通して行ってもらうことにしている(基本的に依頼は手津田さんが斡旋してくる)
霊能関係の胡散臭い仕事依頼がひっきりなしに携帯電話にかかってきたら迷惑だと思ってのことだが、幸か不孝か、ひっきりなしに来るどころか何の依頼もやって来ないことがほとんど。
(今日もないだろうな……ん?1件きている)
拝啓
佐目野宝次郎様
突然のご連絡で申し訳ございません。私、北海道の片田舎に住む海木呼子と申します。
近年、わが町で都市開発を進める運動が起きていましてそれが原因で町に様々な災いが起きているのです。
1週間前には3つ隣に住む秋田さんの旦那さんが謎の病に倒れられ、3日前には我が家で飼っている柴犬のタロウも謎の死を遂げました。それから、私自身頭痛や吐き気がするなど体調が悪化してきております。
老い先短い人生ですのでこれも運命なのかと受け入れることもできますが、同居している息子夫婦にも祟りが舞い込んできやしないかと不安でたまりません。
どうか、この町で起きている災いを鎮めてください。
敬具
……あほくさい。
冬場で血管が弱くなっているから3件隣に住む人と犬が死んだ。依頼主は飼い犬が死んだショックも相まって心身ともに弱ってしまっただけだろう。
何が悲しくてこのくそ寒い時期に北海道まで行かなきゃいけないのだ。
そう思い断りの連絡を入れようとした瞬間、私はある大事な文言を見逃していたミスに気づく。
追伸
依頼料として、わずかばかりの金額ではこざいますが50万円ほど用意させていただきました。ご検討のほどよろしくお願いします。
50万…50万!?
……この依頼私、佐目野宝次郎が見事解決してみせようではないか!
あとでスーパーによって塩買ってこよう。
とりあえず塩まいときゃなんとかなる




