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10.霊能探偵の過去③

宝次郎の一人称は、常に「私」にしようか迷いましたがいいところの坊ちゃんでもないのに家族間で「私」っていうのは現実感ないので「僕」にしました。

宝次郎が警察官を辞め、我が家に戻ってきて1ヶ月が経過した。


3年前、妻を亡くしてから寂しく一人暮らしをしていたので宝次郎には申し訳ないが、帰ってきてくれてホッとした。


けど、元気がない。まぁ、元気がなくなったから仕事を辞めたわけだから当然の話か。


「宝次郎、調子はどうだ?」


「うん……なんだかあまり……というか全然寝付けなくてね。今度、心療内科にでも行って睡眠薬でももらってくるよ」


「……そうか。何なら、父さんが送り迎えするぞ」


「いいよ。もう子どもじゃないんだし」

宝次郎はやつれた顔で苦笑いをして答えた。



翌日、宣言通り宝次郎は近くの心療内科へと出かけた。


これで安心だ、と思ったが1ヶ月経っても2ヶ月経っても宝次郎の顔色はよくならない。


以前までは身体を動かすのが大好きで、暇さえあれば走り込みをしていたのに、今では何の運動もしていない。1日中ボーっと本を読んでいるだけ。


心配になり、声をかける。

「なあ、もし合わないようなら今通っている心療内科とは別のところにした方がいいんじゃないか?」


「いや、いいよ。……うん、そろそろいいかな」


「?」


「父さん、僕そろそろ自殺しようと思う」


突然の告白に思わず怒鳴る。


「馬鹿なことを考えるんじゃない!」


すると、宝次郎は愉快そうに笑いながら手を左右に振った。


「いやいや、違う違う。本当に死ぬつもりはないよ。『自殺する』という意志を見せることが大事なんだ」


この子は一体何を言っているのだろうか?


「僕は、警察を訴えたい。けど、今のままじゃ勝てないかもしれない。だから、警察から受けたパワハラによって僕が死ぬ程つらい思いをしてきた、という事実が欲しいんだ」


「……それで?」


「だからまず、心療内科に通院することにした。そこで、裁判に有利に働くよう、鬱病とPTSDの診断を貰った。精神病に関する本は腐るほど読んできたからね。どういう症状を言えばどういう診断してくれるか分かってた。

そして、次に。睡眠導入剤の確保。精神科医は必要な分しかくれないからね。十分な数を溜め込むまで時間がかかったよ」


宝次郎が鬱病とPTSDの診断を受けているとは知らなかった。本人曰く、詐病だそうだが……このようなことを考えてる時点でまともな精神ではない気がする。


「それで……睡眠導入剤を大量に飲むふりをして自殺するようにみせるというわけか?」


「いや、実際に大量に飲むよ?」


この子はさっきから何を言っているんだ?


「それじゃあ、本当に死んでしまうじゃないか!」


「いや、致死量まで飲まなきゃ大丈夫。睡眠導入剤の致死量は10g。そして、錠剤は1錠0.1g。つまり、100錠飲まない限り死にはしない。僕はその半分の量、50錠を飲むつもりでいる」


「だが……致死量の半分だからといって危険なことに変わりはないだろう」


「だから、父さんに相談してるんだよ。


ある夜、僕は自殺を謀り睡眠導入剤を大量に飲んだ。だが、飲みすぎたため気持ち悪くなりトイレに行き、吐き戻して倒れ込んでしまう。

それから程なく、ションベンをするために起きた父さんが倒れている僕を発見。急いで救急車に連絡。


そういう筋書き。実際、睡眠導入剤を用いた自殺方法ではこのように気分が悪くなってせっかく飲み込んだ睡眠導入剤を吐き戻してしまったり、死ぬまで時間がかかるからそれまで別の人に発見されて未遂に終わることが多いから……怪しまれる心配はないよ」


「……分かった」

本当はよく分かっていない。


不安はあった。こんな考えをするようになってしまった息子を恐ろしくも感じた。


けれど、俺も息子をここまで追い詰めた警察官が憎くて仕方なかったのだ。




























─半年後─

夕日新聞記事


愛知県警察学校で教官から違法な退職勧奨を受けて自主退職させられたとして、20代の元男性警察官が、県を相手取り約1000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が名古屋地裁であった。

裁判長は「強固な上下関係の中で、退職以外の選択は許されないという不当な心理的圧力を加えた違法な退職勧奨だ」と述べ、県に対し400万円の損害賠償を支払うよう命じた。


判決によると、男性は2008年4月、県警に採用され、警察学校に入校。しかし、逮捕術の成績が悪かったことから、「お前に出来て他のやつに出来ないことはない」「お前に教える必要性が感じられない」等の罵声を浴びせた上、男性が練習に参加することを拒絶した。

また、男性が当直勤務を行った際の当直教官は「お前のようなクズ、警察官やめろ」「警察官辞めてどっか別の会社入れ」などと繰り返し罵倒し、男性に職務を辞めるよう必要に迫った。

最終的には中間テストの際、立ち会った監視官が男性がカンニングしていたという虚偽の申告をし、殴る蹴るなどの暴行を行ない、男性を辞職に追い込んだ。

その後、男性は鬱病とPTSDを発症。退職から約2ヶ月後に大量の睡眠導入剤を服用して自殺を謀ったものの、一命は取り留めた。


これに対し県側は、男性に一部厳しい指導を行なっていたことは認めたものの、それはあくまで指導の一環であり、メンタルを鍛えるため必要不可欠なものであったと主張。また、男性が直接辞める原因ともなったカンニングの虚偽申告に関しては一貫して容疑を否定。男性自身がカンニングしたことに間違いはないと主張した。



判決は、男性が辞職するに至った一番の理由であるカンニングの虚偽の申告に関し、「監視官が虚偽の申告をしたと認めるに足る十分な証拠はない」と判断し、男性の主張を退けた。

一方、男性が鬱病とPTSDを発症し、自殺を謀るまで追い込んだことは県警の度重なる行き過ぎた指導が原因であると判断。県側の違法性を一部認めた。


愛知県警は「今後、判決内容を慎重に検討し、適切に対処する」とのコメントを出した。


精神科医が患者に必要な日数分の睡眠導入剤だけ与え、飲み忘れ等で余ってる薬がないか聞くのは薬を溜め込まれないようにするためです。

5錠だろうが、10錠だろうが、患者が規定以上の量を飲んでいた場合、何故それだけの量を飲んでしまったのか詳しく聞かなければなりません。

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