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サイレンス  作者: 1123
メディナ地区
6/8

004:アマーニ・コーヒーハウス

 狭い路地の階段を、幾重にも布で巻かれた赤子を抱き抱えながら下りる、ヒジャブ姿の女性。


 路地のさらにその奥、城壁をくり抜いたアーチ状の入り口、掛けられた看板にはどうにか読めるかすれ具合で、アマーニ・コーヒーハウスと書かれている。


 入り口脇のベンチで、杖を抱き座る老人。

 葉巻のような色味の巻きタバコにマッチで火を点け、吹かし、老人の側へと歩み寄るジェイソン・ブラック(40歳)。

 指先でコインを弾き、老人の足元に落とす。が、気づかずよだれを垂らす老人。


 青く塗られたドアを開け中に入ると、入り口の狭さからは想像できないほどに店内は広く、奥行きもある。中庭に面した席で水タバコを吸う男たちと軽くあいさつを交わす。


「よぉジェイソン。奥にお前さんを探してる若えのが来てるぜ」




 ◇ ◇ ◇




「あんたがジェイソン・ブラックか?」


 煙る店内から中庭の向こうにある離れ。3方向を本棚に囲まれた正方形のテーブルに、向かい合い座るジェイソンと若い男。

 無言で男を見つめるジェイソン。


「ここいらじゃ、どんな賭けにも乗っかるアンダーライターは、あんたしかいねぇって聞いて来たんだ」

「”賭け”じゃねぇ、俺は保険屋だバカヤロウ。殺すぞ」


 一瞬ビクついた若い男、目つきが一段と鋭くなるジェイソン。


「で、てめぇが持ってきたのはどんな条件なんだ?」

「お、おれは、ただ、ブラスボール保険に入りたいだけだ。条件はマドリーの優勝――」

「はぁ?! それならグレンソンンとこの若いのが、そこら中でバカみてぇに勧誘してるだろうが。んなもんでわざわざ来るんじゃねぇよ」

「……金がねぇんだ。この前で全部スッちまった。だから担保は、、、俺の脳みそ半分だ」


 男の額に一筋の汗が垂れ、両こぶしはぎゅっと強く握りしめられている。


「俺はこんなクソみてぇな場所アンダーワールドから一刻も早く本土(ヴァ―ス)に戻りてぇだけだ。ジェイソン・ブラックならどんな条件でも――」

「(遮る様に)うるせぇ」


 バチン、バチン、と指を鳴らし続けながら、何やら考えこむジェイソン。


「トシは?」

「25」

「よし。外れたらテメェの左脳を頂くぜ?」

「……あぁ」


 淡々としたやり取りを終え、小さく頷く若い男。


「オーケ~だバカヤロウ! その条件オレ様が受けてやる。オレたちは覚悟のある奴ぁ大歓迎だ。悪くないぜコノヤロウ!」


 勢いよく立ち上がると若い男に握手を求めるジェイソン。手を差し出す男。その瞬間、男は手を強く引き寄せられた。


「(耳元で)戻る手配は俺が責任を持って準備してやる。安心しろ」


 男の背中に回り、肩をバン、バンと叩き、本棚の方に向かってジェイソンは叫んだ。


「おいタイラー!! 聞いてんだろ、さっさと契約書持ってきやがれ!」


 狭く埃っぽい書庫で、楕円形のデジタルモニターが後付けされた古いタイプライターに、細い指で何かを打ち込んでいるタイラー・エイド(26歳)。


「……」


 書庫の壁を押すとレンガ壁の一部が凹み、本棚の一部がスライドし、その中からタイラーは出てきた。


「どうぞ」


 不愛想に書類と万年筆を渡す。驚きながらもサインをする若い男。


「あと、右の人差し指でこのくぼみを押してください」


 小さな卵型のデバイスを差し出すタイラー。

 言われるがままに若い男は指でくぼみを押した。するとアメーバのように広がった卵デバイスが指をギュッと締め付け、手首の方にまで電子回路のような光が伸びた。


 ポンっ、と飛び跳ねた卵デバイスをタイラーがキャッチし何やら操作すると、プロジェクターのの様な光が放たれ、壁に若い男の詳細なプロフィールが映し出された。


「それではアダムさん、これにて契約完了です。ご成立誠におめでとうございます」


 壁に映し出された若い男のプロフィールをじっと見つめるジェイソン。


「テメェも悪い男だな」


 壁には、

 ※危険人物・傷害事件多数・幼児誘拐などの罪により、適合アダプト解除、アンダーワールドへの追放処分、

 と記されている。


「へっ、ここにいる奴ぁ大体がそんなモンだろ? アンタも――」

「オレは、どんな罪人だろうが客はを差別しねぇ。だが逃げた場合は容赦しねぇ! それがオレのやり方だ。しっかり覚えとけよ」


 空気が張り詰める室内。

 しかしタイラー・エイドは、いつの間にか書庫へと消えていた。


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