002:アリアの部屋
乱雑に置かれた多くの本や地図、椅子の背に掛けられたストール、それと手の平サイズのバオバブ。
長いくせ毛が左右均等に広がり、ベッドの真ん中で姿勢よく眠るアリア・ミホ・フェルナンデス(17歳)。細く長い手足、褐色の肌、美しい横顔。ふいに表情が険しくなり眉間にしわが寄る。
◇ ◇ ◇
見覚えのある屋上、修練の時によく使っていた黒い木の棒を持ち、アリアは祖父シゲンと向かい合っていた。
棒の真ん中辺りを軽く持ち、左右に打ち込むアリア。その動きにシンクロするように半円を描きながら打ち込みを弾くシゲン。
バックステップし距離を取るアリア。瞬間、黒く小さな鳥が猛スピードで二人の間へ飛び飛び込み、張り詰めていた空気を切り裂き、飛び去り、バン!!、という衝突音が隣家から聞こえた。
互いに視線は外さなかったが、衝突音にわずかに反応したアリア。その隙を見逃さず一気に距離を詰めるシゲン。
焦ったアリアは右に逃れようとする。左足を前に踏み込み、右のサイドスローのような軌道で、アリアの太ももに追撃を当てるシゲン。片ヒザをつき、左太ももをさするアリア。見上げると徐々に輪郭がぼやけるシゲン。
「あっ! 待ってまだ――」
煙の様に霧散し、消え去ったシゲン。血の跡がわずかに残る隣のガラス窓。1人屋上の中央で立ち尽くすアリア。
◇ ◇ ◇
早朝のメディナ地区。
夢から目覚め、ベッドに腰かけ、両目をこするアリア。
「若い頃のじいちゃんだったな」
長い髪を後ろにまとめ、丸く広いおでこを出し、ちろちろと少量しか流れない蛇口で顔を洗い、ひび割れた鏡に映る自分を視認するアリア。
「……お腹すいた」
木製のドアをノックする音がうるさく室内に響く。
「アリア! まだ寝てんのかい?」
急いでドアを開けるアリア。両手に2袋ずつ、UGAと記された配給の袋を持ち、いつもと変わらない笑顔のセルマが立っていた。
「30秒で準備しな」
無言で頷くアリア。タンクトップの上からシャツを被りブーツの紐をぎゅっと締め、一瞬だけシゲンの事を思った。
「はい、これ」
茶色い紙袋を手渡すセルマ。中を覗くと、丸いパンに細切れ肉と酢漬けのレッドオニオンが挟まった出来立てのサンドイッチが2つ。
「いつもありがとう、セルマさん」
「……感謝の気持ちは行動で示して欲しいもんだよ」
アリアはパンを1口だけかじり、2人で配給の袋を2袋ずつ持ち、階段を降りていく。