008英雄
英雄。女傑、ヒロインといった方が適切だろうか。
平和な環境で育った俺にはなじみのない言葉だが、教科書で見るような偉人だったり、ここでは先日聞いた、戦争に関することを指しているのだろう。
ほんの半年前、この国は奴らによって侵略を受けたらしい。
平和な日常がいきなり崩され、右も左もわからない内に戦争は終わったとリリは言う。
彼女はその時魔術の才能が開花していなく、戦力にならなかった。
それでも戦線へと繰り出し、軍の一員として戦いを全うした。
遅れをとるまいと必死に頑張ったが、経験と場数が足りず、結局は医療班の応援へと飛ばされた。
悔しそうに彼女は語った。
その戦争で活躍したのが、彼女達、Red Lips.の二人である。
先ほど出会った、ガスマスクをかぶっていた、サラ。
持ち前の力を駆使し、前線で活躍をしていた。
城の軍隊でも一番を争うほどの腕ではないかと噂もされていたそうだ。
そして、エミー。
リリにとても懐いており、お姉ちゃんと呼び慕っている。
周りにかわいらしい笑顔を振りまく、まるで天使のような子だと言う。
彼女はまだその戦争時、何の能力も開花してはいないが、持ち前の器用さを活かし、血の匂いでむせ返る医療班でよく頑張ってくれていたそうだ。
戦争が始まってから、サラ達の出陣の時間が大幅に遅れたそうだ。
仕事で遠征していたそうなのだが、帰ると、国は火の海。
びっくりしたサラはエミーを抱え、城へと飛んだ。
城へ着き、状況を把握し、装備を整え、いざ戦場へと向かう頃には戦力の半分が失われていた。
サラは百騎兵ならぬ万騎兵となり、戦況を変えていった。
敵が壁となり、立ちはだかろうとも、弾丸飛び交う平野でさえも彼女は駆け抜けた。
火の海だろうと飛び込み、捕虜をできるだけ助け、目の前で仲間が残虐に殺されようとも引かず立ち向かった。
そして、彼女が前線で活躍をしている時、城で悲劇が起こる。
城で医療行為をしている途中、奴等が攻め込んできた。
固く閉ざされていた扉があっけなく開いた様を見て、リリは笑ってしまったらしい。
ああ、あの大きい扉が施錠されていても簡単に開くのか。と。
そして、奴らの鎌が飛んでくる。
鎌なんて草を刈るような可愛いものだったらまだよかったのだが、奴らの扱うものは何もかもが大きかった。
治療中の人たちが、血をまき散らしながらはじけ飛ぶ、逃げ惑う人々の悲鳴、もう助からないだろう怪我を負っても、助けを求める人達。
怪我人では何もできない、ならば殺してしまえ。
そんな奴らの声さえ聞こえた気がする。
直後聞こえるのは悲鳴だけだった。
そうだ。エミーは。近くにいたはず。
飛び鎌でやられたのだろう。左腕がない。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
リリは叫ぶ。
「お姉ちゃん。私は大丈夫...早く...逃げて...?」
聞こえていた。エミーの言葉。
だけど、置いていけない。
エミーは私が守らなくては。
エミーを抱えて逃げようとした瞬間、時間が止まった。
止まっているように見えたのかもしれない。
目の前に鎌が飛んでくるのがとてつもなくスローに見えたからだ。
これが、死ぬ直前の光景か。
そう思う余裕すらあった。
死んだ。と思った次の瞬間。
「ここから立ち去りなさい!!侵略者よ!!」
お姉さまの声。
奴らが固まっている。
ついでに言うと鎌も固まっていた。
あと一瞬遅かったら、切り裂かれていただろうという距離で固まっている。
「生存者は速くこちらに来なさい!!」
お姉さま、お姉さま。お姉さま!!
負傷したエミーを抱え、お姉さまのもとへと走る。
「早くエミーの止血を!!!!」
「は、はい!お姉様!」
衣服をちぎり、腕を縛る。
その後にお姉様が魔術で出血を抑えてくれた。二重の措置が行われた。
エミーの命は一応守られた。
「リリ、あなたが生きていてよかったわ。ですが...」
固まった奴らを文字通り消し去りながらお姉さまは話す。
「あなたたち二人だけとは。申し訳ありません。遅すぎました。」
「そんな...」
医療班で死と直面した後、程なくして私たちの勝利で戦争は終わりを告げた。
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「そんな間近に戦争があったなんて...」
「戦争が終わって、1か月後に私の魔術能力が開花したわ。」
「悔しくて。悔しくて。自暴自棄になったわ。なんでこんなに遅いのかって。」
「運命を呪ったわ。私の魔術は即戦力にもなりうる力を持っていたのだから。」
「そんなの、お前のせいじゃ...」
「そう。私のせいではないわ。お姉さまにさんざん言われたわ。」
「あなたはそんなちっぽけなことで自暴自棄になる人じゃありませんって。」
「私はあなたのようなちっぽけなリリは知りません。私の知ってるリリは、その力を未来に役立てようと頑張るリリだけです。って。」
「こんな役立たずだった私でも、役に立てると希望を持たせてくれたわ。」
「...何が何でも役に立つんだろ?」
「知った風な口を聞かないでよ。当たり前でしょ。」
「開花直後の査定試験だって、一発でクリアしてやったんだから。」
「査定試験なんてのがあるのか?」
「そう。お姉さまが遅れてしまったのもそのせい。奴らあのタイミングを見計らってたのよ。」
「でもサラさんもエミーも英雄なのに、なんであんな路地裏で店をやっているんだ?英雄なんだろ?」
「そう。彼女たちは英雄。だけど、市場では戦犯と言われてるけどね。」
「な...」
戦争での被害。
死者と町の損害、そして捕虜として捕らえられた国民。
それが彼女達が遅れたせいだと言う国民が後を絶たない。
あんな戦力があったのに、なぜすぐに駆けつけてくれないんだ。
いくら戦力でも使えなきゃ意味がないじゃないか。
友人を返してよ。私の子を返してよ。
心無い声が町中に響くことは少なくない。
最初は一部の人たちが唱えていたのだが、だんだんと勢力を増してきた。
彼女、サラの力を知っているのか、なかなか行動には移さないらしいが、デモは頻繁に行われていた。
見かねたルルは、サラ達を城で保護することを考えたのだが、断られてしまったらしい。
「怒りの矛先があなた達じゃなくて私たちに向いてくれてよかったですわ~。」
「国家崩壊なんてしたら、私達行くあてありませんもの。」
と言って。
「エミーもあんな状態なのに、よく気丈に言えたものだわ。」
「ああ。あの人達は本当に強いな。会えて本当によかった。」
「...エミーやサラのこともっと詳しく聞かないのね?」
「聞かなくても十分だ。素敵な笑顔も見れたしな。」
「そうね。」
また行った時はしっかりとあいさつをしてこよう。
「守ってやればいいじゃねえか。」
「え?」
「この国の平和を。守りに守って守り抜いて、サラさんやエミーだけじゃない。この国みんなが平和を味わい尽くせるようなそんな国をさ。作ってやればいいじゃないか!!」
「そんな国ができたら、彼女達もいつまでも笑顔でいられるだろう!?そんな国にできるなら俺だってなんだってしたい!!」
「ふふ。そうね。なんだって、か。その言葉忘れないでよ?」
「おう!男には二言はない!!」
「さあ、おいしい昼食が待ってるわよ。」
「今度は下げないでくれよ?」
「さあ?どうかしらね?」
「何を!!俺の楽しみ取りやがってお前は!!」
「さっさと食べちゃうことね~。」
....!!
城への帰路は相当騒がしかった。