007Red Lips.
外から見た印象とは裏腹に中はとても明るかった。
どうやら真っ黒いガラス窓はスモークガラスのようだ。中からだと外の様子がしっかりと伺える。
そんなことより。
俺の目の前には身長3mはあるだろう、ガスマスクが立っていた。
俺の顔をのぞき込んでいる。ガスマスクのあの特徴的な丸い目が俺を見ている。悲鳴をあげそうだった。
「あら、初対面で悲鳴を上げないなんて、意外と芯があるのね~。ねえ?リリ。」
ファーストインプレッションを裏切る、とても可憐な声でそのガスマスクはしゃべった。
よくみると、女性の体つきだ...
いろんな意味でまた悲鳴を上げそうになる。
「そんなんでも一応男だからね。同時に今日のお客。頼んだわよ。」
「わー、というとあの噂の〜?」
「お手柔らかにしてやってね。」
「はーい、準備してくるわ~。」
ガスマスクはスキップしそうな勢いで裏へと消えていく。
それにしても、このお店、何の店だろうか。
入ってすぐにカウンター。品物一つも目につかない。
「邪魔になるから、首輪取っておくわね。私の拘束も一時的に解除するわ。」
「え?これはルルにしか外せないんじゃないのか?」
「お姉さまもそんな馬鹿じゃないわよ。一回使いきりの鍵を生成してもらってるわ。」
「なんというか本当に便利なんだなあ。」
「そうそう。くれぐれも逃げ出さないように。30分もたてば、首輪は自動的にセットされるわ。」
「そんな気も起こす気にならねえよ。」
ふいに服の裾を引っ張られた。
目をやると、そこには子供が立っていた。
「いらっしゃい。お客さんなの?」
ぼそぼそとその子供がしゃべる。目も焦点が合っていなく、俺の顔をとらえていない。
なんだこれは。あまりの出来事に唖然としてしまい、声が出ない。
「?」
トタトタと足音を鳴らしながら、リリのほうへと走っていった。
「あら。エミー今日も元気ね。」
「うん。お姉ちゃんお久しぶり。」
「おい。その子...」
「どうかしたの?」
どうかしたの?じゃないだろう。
その子、片腕が無いじゃないか。
袖から出ているべきものが一つ足りない。
すぐに俺は異常だと判断してしまう。
「あなた...さっきから何なの。気に障るわ。」
「いや、でも...それ、かわいそう---
「でもじゃないわよ!!なんなのよ、さっきからアンタは!?」
「かわいそう!?この子は同情なんてしてほしいと思ってると!?」
「落ち着け、話を---
「はあ、もういいわ。」
急に落ち着いてリリが話す。
突然の出来事で何も反論ができない。
リリは店の外へと出て行ってしまった。
「お兄ちゃん、リリお姉ちゃん怒らしたの?」
「ああ、そうみたいだ。思い当たる節はないんだが...」
目線を合わすため、俺はしゃがむ。
「かわいそうって私のこと?」
「え?ああ、その、まあ...」
「ありがとう。」
少女はかわいらしく微笑む。
「最近みんな、私を見ても、話しかけようとか、視界に入れようとしないの。」
「すごくつまらないの。」
「でも、お兄ちゃんはすぐに私を気にかけてくれた。ありがとう。」
「それはリリが癇癪を起してくれたおかげというか...はは、君は強いんだね。ありがとう。」
「?...あ。」
「お兄ちゃんはこれから私のお友達?」
「もちろん。よろしくな。」
少女は満面の笑みを見せつけてくる。
俺は罪悪感を感じる。この子は本当に強いじゃないか。
「さあ、準備できたわよー。ってあれ、リリは?」
奥からガスマスクが何やら物騒なものを持って出てくる。
「お外ー」
「あら~、またあの子やっちゃったのかしらね。根は優しいんだけどね~。」
「まあ、仕事料はもらってるし、さっさと済ませちゃいましょうかね~。」
ガスマスクは身の丈ほどもある物騒なもの---西洋の拷問道具のような、というかアイアンメイデンを振りかざし、中に入れようとしてくる。
「うおおおおおお!?」
「大丈夫よ~。見た目は死にそうだけど、実際は拘束するだけだから~。」
「絶対死ぬって!!絶対死ぬって!!」
まんまと俺はアイアンメイデンへと幽閉され、どこかへ運び出された。
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「あああ、死ぬかと思った。」
ふらふらしながら俺は店を後にした。
「おつかれさま。」
リリは何食わぬ顔で労いの言葉をかけてきた。
それにしても、俺は一体何をされたんだ。
どのくらい時間がたったんだ?
アイアンメイデンに閉じ込められたまま、外の環境音を聞くばかりで放置されていた。
環境音というか騒音である。アイアンメイデンの中で反響し、とても耐えがたいものだった。
このまま俺は殺されるんだなぁとはんばあきらめてしまっていた。
そういえばどういう原理なのか、首輪が戻っている。30分以上は経ったのか。
「結果はどうだったの?」
「結果?」
そういえば、無事解放された後、ガスマスクが何やら話していた気がする。
頭が空っぽにされたようにぼーっとして、何も覚えていない。
「ああ、彼女の施術を受けたんですものね。覚えているはずがないわ。」
「なにか書類一式もらわなかった?」
「ああ。これだけど...」
「これがあれば事足りるわ。さあ。帰るわよ。」
リリは歩き出す。俺もそれについていく。
「あの...さっきは...」
「ん?」
「さっきは申し訳ないことをしたわ。ごめんなさい。」
「なにか理由でもあるのか?あんなに取り乱すなんて。」
「...あのRed Lips.の二人は英雄なの。この国の。」