074 清算
ここは前に来た事がある。
2回目だ。
なぜまたここへ呼び出されたのだろう。
死んだんじゃないのか。
死ぬ決心で薬を浴び、飲んだ。
その後の記憶はあまりはっきりしないが、最後は誰かと安らかな気持ちで死んだ気がする。
とりあえず歩き回る。
そうすれば必ず顔を出す。
煙草を吸いに。
必ず来る。
…しかし待てども待てども彼はこない。
何をすればいい?
呼べばいいのか?
しかし名前もわからなければ、呼んだところで来るとは断言できない。
待機。
私に課せられた事はそれだけだ。
…どれだけ待った?
何時間?何日?何週間?
真っ白な背景にただ一人。
頭が狂ってしまいそうだ。
もう狂っているのかもしれない。
もしかしたら悪い夢かもしれない。
そうに違いない。
でも違ったら?
現実だったら?
ずっと私はこのままなのか?
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
わからない。
「…よう。ずいぶんと待たせちまったな。」
「ッ!?」
やはり現れた。
今度は何を告げられる?
死神はやはりタバコを吸い始める。
「…大変だったな。」
「はい…」
「無という感覚をちょっとでも味わえたか?」
「なんてブラックジョークは置いとくか。これから忙しくなりそうだ。」
「にしてもなんでお上さんは俺に任せっきりなんだか。」
「さすがにここまで来ると…いやそうでもないか。」
死神は書類を取り出す。
以前見た生前の行いやアカシックレコードの記録だろう。
「大正解。読むのがめんどいのか、俺が全部読み解いたから、おれに全部任せようと楽しようとしたのか…」
やはり考えるだけで意思疎通できるのは変わらないみたいだ。
「そうそう。また時間もらうが、もうちょっと待ってくれよ…」
「まあ、現世に戻った後の行いで大体処分は決まっているんだが…いきなり言うのも流石の俺も辛い結果なものでな。」
地獄行き…だろうか。
「まあ待ってな。俺としてもなんとか穴を見つけて楽な処分をできるようにするからよ。」
まあどちらにせよ最初の死神さんの言葉であまりいい結果は期待できなさそうだ。
「どうだった?もどってみて。」
「わかりません。多分選択としては不正解だったかと私は思いました。」
「…まあそうかもな。他人が口出すところではないが。」
「それに気づくのが遅すぎました。」
「カウントの事か?そうだな。いくらノーヒントとはいえ気づけただけで儲け物さ。」
…
おそらく死後の世界の中で死神と対峙していると言うのに、世間話のような事ばかり話していた。
まるで死神が結果を私に伝えたときになんとかショックを和らげるかのような計らいのように感じた。
「ふぅ。バレちゃしょうがねえな。」
「現世の行いの序盤を読んだ時からもうお前のこの先は決まってるんだ。穴なんてどこにもねぇ。」
「お前、消えるぞ。」
…消える。
消える。
消滅。
なんだって?
消える?
死神は一体何を言っているのでしょうか?
「清算。」
たった一言死神は言い放った。
「清算...?」
「そう。清算だ。お前さんが現世で行ったことへの清算だ。」
「何をされるのでしょう。」
「まあ、まずは説明だ。急に結果を言っても納得できないだろうしな。」
(まあ説明してもダメかもしれないが…賭けだな。)
「まず、禁忌である人体蘇生を行いお前さんは一度ここに来た。そして、俺の保障で現世へと帰った。ここまではお前さんもはっきり覚えているだろう。」
「そして今回、ちゃんとカウントしていたが、あれはお前さんが現世で体験した通り、気付いてメモした物で間違いないものだ。内容は大体あってた。」
「しかしなぜまたここへ来たのか?その理由は。人喰い植物と合体したお兄さんを殺したことだ。」
「やっぱり私が殺したんですね。」
「そうだな。このアカシックレコードに書いてある。」
死神は書類をピラピラと振りながら答える。
「それが大問題なんだ。何故か?それは人を生かしてしまった。」
「生かした?私が?誰を!?」
「達人とかいう連中だ。」
「っ!?」
「そう。びっくりしたよな。間接的に助けてしまったんだ。」
「お前は瘴気の薬剤を作った。それを適切に使えば夢の中でお前は許されたと言うようなお上さんの言葉をいわれ、カウント保障もなくなるはずだった。要するにカウントを間違えて使ってしまったと言うことだな。」
「でもそれはお兄様を助けるためで…!!!」
「そうだよな。でも俺は前回教えたはずだ。」
死神はまたタバコを吸い出す。
「ふーっ。本来はあの連中の旅は人喰い植物と合体したお兄さんに殺され終わる予定だった。」
「それって…」
「そう。間接的に人間蘇生もやってしまったと言うわけだ。」
「人間の蘇生は一度やっただけで普通はお上さんに裁判にかけられるが、お前さんの場合は生前の素行が良かった。」
「そのおかげでここに来れた。保障も受けられた。」
「しかし、今回はもうダメだ。許されねぇ。何の待遇も期待できない。」
死神はもう一本のタバコに火を付ける。
「さあ、ここまでは大丈夫か?」
「は、はい…」
答えはしたが、正直怖い。どんな処罰が待っている?
「まあ怖いわな。」
「はい。とんでも無く。」
「ふっ。やはり精神が変わったな。すこし悪い方向に傾いているが。」
死神はタバコを吸う。まるでこれからの処罰を言い渡す時間をなるべく長く得ようとするように。
「お見通しか。じゃあ、早速言い渡すぞ。結果を。きっぱりと。単刀直入に。」
タバコを吸い終わった死神がそう言い放つ。
「は、はい。」
「---------------。」
いまなんと言われたのでしょう?
あまりにも衝撃的な内容の発言が聞こえた気がしてならない。
死神はいったいなんと言った?
「まあ、にわかには信じられないし、聞き辛かったかもな。もう一度言う。」
「お前はこの世界から消える。きれいさっぱりと。」
「そしてお前さんが消えた後は何事もなかったように現世の立ち位置が変わる。達人の連中は自力で倒したと歴史が改竄される。…大丈夫か?」
「はい…」
「すごいな。ここまでメンタルが強い奴は初めてだ。というか現世で鍛えられたか。」
「さて、もう話すことは話した。何か質問は?」
研究所のメンテナンスと村の住人たちの食料問題が心配ですが、役割が変わるなら、せめて私に関する質問を...!!!
「私が消えるのは理解したつもりです。でもお兄様の処遇が知りたいです。」
「…本来は言えないが。冥土の土産ってやつか?...まあ俺の独断で決めてもいいか。教えてやるよ。」
「お兄さんは極楽浄土にいるよ。お兄さんもお前さんを心配してた。しかし、お前さんが消えるとすっかり忘れられてしまうかもな。」
「そんな…お兄様の記憶から私が消える…?そんなこと!!!耐えられない!!!もう一回書類を見返してください!!!穴はないのですか!?」
死神はタバコに火をつけながら、一番上にあった書類を投げ捨てた。
「おっと、まずいな。貴重な資料を落としちまった。絶対拾うなよ。拾っても中身を見るんじゃないぞ。」
明らかにわざとだ。それを読めと言うことだろう。
-ラミナの存在を消すことに決定-
神、閻魔
書類の下の方にはおそらく神様と閻魔様の印鑑とサイン、そして拇印が見受けられる。
「おっと。すまんな拾ってくれて。」
死神に書類を取り上げられる。
そして新しいタバコに火をつける。
わたしはそれだけ長い時間こんな短い文章を書いただけの書類を眺めていたのか。
「...もうダメなんですね。」
「さあ?なにを根拠にそういっているのかは知らないが、俺はなんとか穴がないか探したつもりだぜ。」
「はい。」
もうダメなんだ。追い詰められた。詰み、チェックメイトだ。
「もう条件を飲むしかないとわかりました。」
「前回みたいにネジ外れるかと思ったが、本当にすごいなお前さんは。」
「たとえお兄様に忘れられようと、お兄様が天国にいらっしゃると分かっただけで十分です。安心しました。さあ...お願いします。」
「ちょっと待ってくれよ。俺の楽しみを邪魔しないでくれ。」
そう言うと死神は背中を向け、タバコを吸い始める。
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...まだ死神はタバコを吸っている。
まるで子供が駄々をこねるようだ。おもちゃをねだって買ってくれるまでつづけるように。
「ちっ、これで最後か...」
死神さんの足元にはたくさんの吸殻が落ちている。
「...ふーっ。とうとう無くなってしまったな。かといって新しい箱を開けるわけにもいかねえよな。すまんな。覚悟を決めたのに待たせてしまって。」
「いえ...」
「そろそろやらせてもらうか。待たせたな。」
「貴方は優しいんですね。」
「おいおい。そんなこと言うんじゃねえ。一応かっこいい死神という名ををかざしているんだからよ。」
「...じゃあいくぞ。」
「はい。」
私が消えていくのがわかる。
地面に立っているのにまるで宙に浮き、柔らかい、まるで湯船に使っているような心地よささえ感じる。
多分、死神さんが優しく消してくれているんでしょう。
みんな、ありがとう。
そして、ごめんなさい。
最後に、さようなら。
みんなに直接、言いたかったなぁ。
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「さて、始末書は何枚書くことになるのかねぇ。正直娘のように可愛かったから優しくしちまった。」
「後一本くらいは許してくれっかなぁ。あまりにも時間つかっちまったし。いいや吸おう。」
「ふーっ。どうせ始末書書くのに忙しくてこんな仕事は回ってこないだろう。」
「はぁ〜。疲れた。疲れちまったよ。」
「どうせ始末書は書くんだ。ちょっとくらいはサービスしとくか。始末書が増えれば仕事も回ってこないしな。よしそうしよう。俺にも休みは必要だからな。多分。」
こういった暗い話が好きなのですが、自分で書くのはやはり難しいですね。
一応個人的に満足できる文章になりました。




